党勢低迷に苦しむ立憲民主党において、創設者である枝野幸男元代表の存在感が再び高まり、党内で波紋を広げている。特に安全保障関連法を巡る彼の最近の見解は、結党以来の党の方針と異なるものとして、所属議員や支持者の間で驚きと困惑を招いている。この発言は、党の針路変更を目指す野田佳彦代表への援護射撃か、あるいは党内での主導権を巡る新たな動きなのか、様々な憶測を呼んでいる。
安保法巡る発言の真意と党内の反応
先月末、枝野氏は安全保障関連法について「違憲の部分はない。だから変えなくていい」との見解を示した。これは、これまで立憲民主党が集団的自衛権の行使を容認する安保法制を「違憲部分の廃止」と強く主張してきた立場とは一線を画すものだ。彼の発言は、衆議院予算委員会の委員長として多忙な日々を送る中で披露され、その唐突さに政治部デスクは「驚きと困惑が広がった」と指摘する。
立憲民主党の枝野幸男元代表
この枝野氏の発言に先立つこと10日前、野田佳彦代表は国民民主党と日本維新の会との党首会談で、同様に「違憲部分はこれまで見つかっていない」との見方を示していた。枝野氏がこの野田代表の発言を知らなかったはずはなく、彼のコメントは野田氏への「援護射撃」と解釈される向きもある。野田氏は代表就任時に「政権交代を実現するために党の方針を中道路線に修正する」と掲げており、党が国民民主党や公明党と連携するには、基本政策での一致が不可欠となる。特に安保法制の扱いは、野党結集を阻む大きな障壁とされてきた。立憲民主党の関係者は、枝野氏が顧問を務めるリベラル系グループ「サンクチュアリ」の発言力が強い党内において、「自分が発言することでリベラル勢力への抑えが利く」と考えた可能性を示唆している。
野田代表の逡巡と枝野氏の戦略
しかし、野田代表は今月7日の会見で安保法に対する方針に触れ、「いろいろな意見があるが、いま変更するということではない」「現時点で執行部が路線を変えることはない」とトーンダウンした。これは、野田氏が枝野氏の援護射撃を受け入れつつも、最終的な決断には至らなかったことを示している。ある立憲民主党関係者は、「野田さんは結局、決断できなかった」と述べ、昨秋の代表選で争った二人の間に、野田氏が枝野氏の真意を測りかね、あるいは信じ切れなかった可能性を指摘する。党内では「枝野さんは牽制球で党内を揺さぶり、野田さんから主導権を奪うつもりでは」という見方も根強くくすぶっているという。
枝野氏の行動は、安保法制に関する発言に留まらない。財政規律論者として知られる彼は、今夏の参院選前には党内で消費税率引き下げを訴える議員らを「減税ポピュリズム」と厳しく批判し、離党を求めるまでに至った。また、今月7日に衆院予算委員長としてデビューした際には、委員長が閣僚や議員を「君」付けで呼ぶ慣例を改め「さん」付けに変更。「いまどき目上、年上の方に君なんて呼ばない」と説明した。彼の口癖は「政治は時間の関数」、つまり政治に求められる答えは時とともに変化するという意味だという。
今後の立憲民主党の行方
枝野氏の言動は、かつての信念を翻した「君子豹変」と見るか、あるいは先を見据えた「深謀遠慮」と捉えるか、その真意は定かではない。しかし、彼の存在感が立憲民主党の内部に緊張と不確実性をもたらしていることは明らかだ。党の進路を巡る野田代表のリーダーシップと、枝野氏の複雑な思惑が交錯する中で、立憲民主党内の「やきもき」は今後も続くだろう。党が中道路線への転換を模索する中で、創設者の言動がどのような影響を与えるのか、注目される。
参考文献
- 「週刊新潮」2025年11月20日号 (新潮社)





