東京都足立区の国道4号(日光街道)で11月24日白昼、自動車販売店の展示車を盗んだ男がパトカーの追跡中に暴走し、歩道に乗り上げて複数の歩行者をはねた結果、2人が死亡、9人が重軽傷を負うひき逃げ事故が発生した。警視庁西新井署は同日、現場から逃走した37歳の男を自動車窃盗容疑で逮捕し、ひき逃げ事件についても捜査を進めている。この悲劇的な事件は、盗難車の危険な運転がもたらした重大な結果として、地域社会に大きな衝撃を与えている。
盗難車の特定と事件の経緯
事件は11月24日午前10時20分ごろ、足立区島根にある自動車販売店で発生した。男は同店に駐車されていた普通乗用車1台(時価約310万円相当)を窃取した疑いが持たれている。警視庁の担当記者によると、容疑者はこれまでに同店に2回来店しており、スタッフ間では「要注意人物」として認識されていたという。
最初の来店は7月4日で、「これを買いたい。午後にお金を持ってきます」とクラウンを指差したものの、結局現れなかった。また、事件2日前の11月22日昼ごろにも展示車を見ていたと目撃されている。事件当日も、スタッフが容疑者の存在に気づき注意喚起をした直後、クラウンがすごい勢いで左折し国道4号を走り去ったため、すぐに110番通報された。容疑者は来店時のアンケートに住所氏名を残しており、防犯カメラ映像の解析と合わせてすぐに特定に至った。盗まれたクラウンは試乗車ではなく、商品として展示するため他店から陸送されてきた車両だった。ナンバープレートの代わりに「認定中古車」のプレートを付け、点検作業のために無施錠でスマートキーが車内に置きっぱなしになっていたのを、男に狙われたようだ。
亡くなったフィリピン人女性と凄惨な事故現場
暴走と多重事故の惨状
通報を受けた警視庁のパトカーが男の運転する盗難車を発見し、追跡を開始したのは、窃盗から約2時間後の同日午後0時半ごろだった。車は暴走し、まず横断歩道を渡っていた足立区の会社員でフィリピン国籍のテスタド・グラディス・グレイス・ロタキオさん(28)をはねた。ロタキオさんは出血性ショックで死亡が確認された。その後、車は歩道に乗り上げて約100メートル走行し、足立区内の無職・杉本研二さん(81)ら歩行者4人をはねた。杉本さんも頭の骨を折るなどして死亡した。
車はその後車道に戻り、トラックに衝突した後、ガードレールに突っ込んでようやく停止した。この暴走中の多重事故により、トラックの運転手ら6人が重軽傷を負った。現場の状況から、第一事故現場では時速約70キロでブレーキ痕はなく、歩道に乗り上げてからも時速約60キロという相当なスピードで走行していたことが判明している。目撃証言などから赤信号を無視した可能性も指摘されており、警視庁は道路交通法違反(ひき逃げ)や自動車運転死傷処罰法違反(危険運転致死傷)容疑も視野に入れて捜査を進めている。
防犯カメラに記録された逮捕された男が運転する白いクラウン
容疑者逮捕と今後の捜査
現場から徒歩で逃走した男は、同日中に自動車窃盗容疑で逮捕された。男は以前の来店時にアンケートに氏名などを残していたため、防犯カメラ映像と合わせて迅速な特定が可能だった。この事件においては、容疑者の刑事責任能力の有無が今後の捜査の焦点の一つとなる。
警視庁の担当記者は、刑事責任能力を判断するため、今後は鑑定留置の必要性も浮上してくる可能性があると述べている。この悲惨な事故は、無謀な運転と盗難がもたらす深刻な結果を改めて浮き彫りにした。警察は全容解明に向けて慎重に捜査を進めていく方針だ。





