クマが腰を抜かしたように……
年の瀬だというのに、クマの出没情報や被害を受けたニュースが後を絶たない。人間の領域にクマが侵入してくるのをどう防ぐかは喫緊の課題である。そんな昨今において光明となり得るクマ対策機器を製造・販売しているのが、北海道・奈井江(ないえ)町の太田精器だ。
同社の「モンスターウルフ」は、その名の通りオオカミを模した形で、今にも襲いかかってきそうな格好をしている。クマやイノシシ、シカ、サルを感知すると、オオカミの遠吠えだけでなく「お前だけは許さない!」といった人間の言葉を含む50種類の音声を出し、目からは赤く鋭い光が発せられるのだ。
実際、どれほどの効果があるのかというと、販売用のホームページに載っている動画には、クマが腰を抜かしたように逃げてゆく様子が映っている。これまでの設置台数は約330台で、クマから逆襲された例はない。現状、据え置き型のため、農家やゴルフ場、畜産業者などが顧客だ。
「バカバカしい」と笑われても
同社の太田裕治社長(67)に話を聞くと、
「私は北海道の大学を出て、若い頃は、警察官として千葉県警で成田空港の機動隊に勤務していました。その後、父の体調の都合もあって会社を継いだのです。モンスターウルフ開発の根底には、警官時代に培われた防犯・防災に対する意識があったのかもしれません」
開発のきっかけは、大学教授から「クマの天敵はオオカミだよ」と教えられたこと。クマは食物連鎖の頂点にいるが、ライバルのオオカミは絶滅してしまっている。しかし、オオカミをほうふつとさせる姿を見せれば逃げるかもしれない。試行錯誤の末、2016年に初号機が完成する。だが、顧客どころか従業員からも評価は散々だった。
「見た目が奇妙かつユニークだったせいか、最初から疑念の目で見られました。“子供だまし”“バカバカしい”などと鼻で笑われたのを鮮明に覚えています」(同)
価格は42万円
逆風の中、タダでいいからと頼んで置いてもらった札幌のリンゴ農園から驚きの報告がもたらされる。いつもは動物の足跡だらけの場所にモンスターウルフを置いたら、足跡がすっかり消えたのだ。以後、本州にも販路を広げ、今日に至るのだが、何しろ重さ約20キロ、価格は42万8000円(税別)からの代物。一般人がおいそれと手を出せるものではない。
「以前から多くの方より遭遇時のための携帯型を作ってほしいとの要望が寄せられていました。当社では試作品を完成させていますが、課題もありますので、まだ詳細はお伝えできないのです」(太田氏)
早期の実用化が待たれる。
「週刊新潮」2025年12月11日号 掲載
新潮社






