体内に侵入した病原体や異物から体を守る「免疫」の仕組み。人の健康になくてはなりませんが、加齢に伴い免疫機能も低下すると言われています。ここでは「免疫の老化」をテーマに、具体的に何が起きるのか、防止の手立てについて免疫研究の第一人者である吉村昭彦氏に聞きました。
■免疫は2種類に大別される
免疫とは、体内に侵入したウイルスやバクテリアなどの病原体、あるいはがん細胞などの危険な「異物」から体を守る機能のことです。生まれつき備わっている「自然免疫」と、一度異物に接触することで獲得する「獲得免疫」の2種類に大別されます。
「自然免疫」は好中球やマクロファージ(体内に侵入した病原体・異物を貪食して排除する免疫細胞)などが病原体を攻撃する仕組みで、一方、「獲得免疫」は抗体や細胞傷害性のキラー細胞によって異物を排除するもので、一度接触した異物の情報を記憶して次回の感染などに備えるメモリー機能もあります。
体を病気から守るための免疫も誤作動や暴走で病気を引き起こすことがわかっています。本来、免疫は病原体やがんといった危険なものにだけ反応し、食物や花粉を攻撃することはありません。このような仕組みを「免疫寛容」と呼びます。
ところが異常調節や老化などが原因で働きが破綻すると、自己免疫疾患やアレルギーを発生します。例えば花粉症や食物アレルギー、1型糖尿病、関節リウマチなどは免疫寛容が破綻するために起きる症状です。
また免疫細胞が使用する「サイトカイン」と呼ばれる情報伝達物質の過剰な産生もアルツハイマー型認知症や糖尿病にも関係することが知られています。このように、免疫は体を守る働きがある一方、その弊害も明らかになってきました。
体を守る免疫機能は30代ごろから老化が始まって加齢とともに徐々に進行します。そこには、個体の老化も深くかかわっています。
人間の体はおよそ60兆個(最近は37兆個と言われています)の細胞からできており、細胞の多くは分裂をしながら古い細胞と新しい細胞を入れ替えています。ところが細胞分裂の回数には限界があり、分裂しつくした細胞は二度と分裂・増殖できません。「細胞老化」と呼ばれる現象で、細胞老化に至った細胞は「老化細胞」と呼ばれます。