相次ぐ山岳での救助要請、特に閉山期間中の事例が発生する中、山岳救助にかかる高額な費用負担が注目されています。中でも、防災ヘリコプターの出動には多大な経費がかかり、1時間あたり燃料費だけで40万円から50万円にも上ると言われています(静岡県調べ)。こうした背景を受け、山梨県では防災ヘリによる救助活動の有料化に向けた条例制定の検討を開始しました。では、実際に山で遭難した場合、救助にかかる費用は誰が負担するのでしょうか。
公的機関による救助の原則 – 無料
原則として、消防や警察といった公的機関が山岳救助に出動した場合、その活動費用は税金で賄われます。遭難者本人やその家族に直接的な費用負担は発生しません。これは、ヒマラヤでの7000m級の登山経験も持つ弁護士、溝手康史氏も指摘するところです。現在、民間で救助ヘリを運用する会社はほとんどなく、通常は消防や警察のヘリが救助にあたります。全国的に見ても、公的機関によるヘリ救助で有料化しているのは埼玉県のみという状況です。埼玉県では、燃料相当分として5分あたり8000円を請求しています。このような状況を考えると、一部で「タクシー代わり」に安易な救助要請が行われる可能性も指摘されています。
ヘリだけではない救助費用 – 民間委託の場合
救助活動はヘリコプターだけではなく、多数の救助隊員による地上での捜索・救助も含まれます。救助隊員が警察官や消防隊員であれば、その人件費も税金で賄われます。しかし、警察や消防だけでは人手が足りない場合や、遭難者またはその家族からの要請があった際には、地元の山岳遭難対策協議会に所属する民間人が出動することがあります。この場合、出動した民間人への日当が発生し、その費用は遭難者やその家族に請求されることになります。
民間による救助にはいくつかの形態があります。山岳遭難対策協議会所属の民間人が出動する場合(有料)、遭難者が所属する山岳会のメンバーや友人・知人が出動する場合(通常無報酬だが実費負担)、そして民間の救助会社に依頼する場合(有料)です。地域差はありますが、山岳遭難対策協議会所属の民間人に依頼した場合、日当は1日あたり3万円から5万円程度が必要です。仮に日当3万円の隊員5人が5日間捜索すれば、人件費だけで75万円にもなります。友人・知人による捜索はボランティアが基本ですが、宿泊費や交通費などの実費は遭難者側が負担することが多いです。
捜索打ち切りと保険の重要性
公的機関による捜索活動は、おおむね4、5日から1週間程度で打ち切られるのが一般的です。山岳遭難対策協議会所属の民間人は、警察などの公的機関を補助する形で活動するため、公的機関が捜索を打ち切れば、彼らの活動も終了します。その後も捜索や救助が必要な場合は、友人・知人による自力での捜索を続けるか、民間の救助会社に改めて依頼するしかありません。民間の救助会社に依頼した場合、非常に高額な費用が発生する可能性があります。
こうした捜索・救助活動にかかる費用だけでなく、登山中の怪我や疾病による入院費、治療費などに備えるためにも、山岳保険への加入が強く推奨されます。保険の種類や特約によって補償内容は異なるため、自身の登山スタイルに合った保険を選ぶことが重要です。
海外事例に見る「救助無料、救急車有料」
海外における山岳救助費用の扱いはどうなっているのでしょうか。多くの国では、公的な山岳救助にかかる費用は無料で提供されています。しかし、興味深いことに、場所を問わず救急車の利用は有料である国が少なくありません。スイスは例外的な国の一つで、国内どこでも救助ヘリおよび救急車が有料です。そのため、多くの国民が保険に加入していると言われています。
埼玉県有料化の効果と課題
唯一防災ヘリの救助を有料化している埼玉県では、条例施行前4年間の出動件数が41件だったのに対し、施行後4年間は24件と減少しました。埼玉県はこの減少について、有料化の効果だけでなく、危険箇所の周知チラシ配布など事故防止キャンペーンを継続してきた成果も大きいとしています。
埼玉県における有料化には課題も指摘されています。県には県の防災ヘリと警察ヘリがありますが、有料なのは県の防災ヘリのみで、警察ヘリは無料です。これにより、どちらのヘリが出動するかによって費用が発生するかどうかの違いが生じ、救助を受ける側にとって不公平感が生じる可能性があります。
防災ヘリと山岳地帯のイメージ写真:高額な山岳救助費用に関する記事
総じて、日本の山岳救助システムは公的機関による無料提供が基本となっていますが、その裏には多額の税金が投入されており、また状況によっては民間への委託による自己負担費用も発生します。埼玉県のような有料化の動きや、海外の事例も参考にしながら、高額な費用と公共サービスとしてのあり方についての議論が今後も続けられるでしょう。登山者自身の安全対策と事前の準備(保険加入など)が、万が一の事態における経済的な負担を軽減する鍵となります。
参考情報源:
- Yahoo!ニュース / FRIDAY (記事内容に基づく)
- 弁護士 溝手康史氏への取材情報 (記事内容に基づく)
- 静岡県、埼玉県など関係機関の公表情報 (記事内容に基づく)