近年、マクドナルド前などで待機するウーバーイーツ配達員の姿を目にすることが減った。「マック地蔵」とも呼ばれた彼らは、一体どこへ行ったのだろうか。この変化の裏には、日本のギグワーク、特にフードデリバリー業界を取り巻く経済状況の深刻化がある。かつては効率を求め特定の場所に集まっていた配達員たちが、今、働き方そのものを見直さざるを得ない状況に追い込まれているのだ。
待機戦略の変化:「マック地蔵」から「自宅地蔵」へ
2020年からウーバーイーツ配達員として活動している筆者の経験によると、公園のベンチや飲食店の周辺など「外」で配送依頼を待つのが一般的だったのは昨年までだという。しかし、2025年に入ってからは、外に出ず「家」で依頼が来るのを待つスタイルに変わった。
この「自宅地蔵」と呼ばれる待機方法は、筆者だけのものではないようだ。SNSプラットフォームのX(旧Twitter)で検索すると、「ウーバー注文こないから自宅地蔵継続」「自宅で地蔵して注文鳴ったら行くわ」「自宅で鳴るまでのんびりしよー」といった投稿が数多く見られる。これは、多くのウーバーイーツ配達員が、効率的な待機場所での待機から、自宅での待機へとシフトしている現状を示唆している。
なぜ、配達員たちは「マック地蔵」のような屋外での待機から、自宅での待機へと戦略を変えたのだろうか。その背景には複数の要因が複雑に絡み合っている。
デリバリー需要の減少と報酬低下が招いた現実
かつて多くの配達員が飲食店の近くで待機していた理由は明確だった。ウーバーイーツの配車システムは機械が行っており、注文があった飲食店から近い場所にいる配達員ほど、配送依頼が優先的に割り振られる傾向があったからだ。これは配送効率を高める上で合理的なシステムであり、配達員は少しでも多くの仕事を獲得するため、まるで獲物を狙う狩人のように飲食店周辺に集まっていた。時給制ではないウーバーイーツの仕事では、こなした件数がそのまま収入に直結するため、「仕事の奪い合い」が常態化していたのだ。
しかし、新型コロナウイルスによる自粛制限が解除されたことで、デリバリー需要は大きく減少した。さらに、近年の世界的なインフレーションとそれに伴う物価高が、「デリバリー離れ」という状況を深刻化させている。多くの消費者がデリバリーの利用を控え、自分で店舗に受け取りに行ったり、内食に切り替えたりする傾向が強まっているのだ。
このような市場環境の変化は、ウーバーイーツ配達員の収入に壊滅的な影響を与えている。筆者の証言では、現在の収入はコロナ禍の頃と比較して3分の1程度にまで落ち込んでいるという。かつては割の良い仕事も多かったが、今や時給換算で400〜500円程度にしかならないケースや、1時間全く注文が入らず「時給0円」になる時間帯も珍しくなくなった。
マクドナルド前で待機するウーバーイーツ配達員の様子
低迷する収益への対応としての「自宅地蔵」
報酬が大幅に低下し、待機場所で長時間待っても注文が来ない状況では、屋外で待機し続けること自体が非効率的になる。炎天下や寒空の下、あるいは雨の中で長時間待機する労力と、それに見合う報酬が得られないリスクを考慮すると、体力や時間を消耗する「マック地蔵」は得策ではなくなったのだ。
その結果、多くの配達員が、注文が入るまで自宅で待機し、依頼が入った時だけ稼働するという「自宅地蔵」のスタイルを選択するようになった。これは、デリバリー需要の低迷と報酬単価の下落という厳しい現実に対し、配達員たちが自己防衛のために編み出した苦肉の策と言える。効率を追求して特定の場所に集まるのではなく、最小限のコスト(時間・体力)で機会を待つという、新たな働き方への適応が起きているのだ。
まとめ
マクドナルド前などでの「マック地蔵」が減少している背景には、コロナ禍後のデリバリー需要の減退と物価高による「デリバリー離れ」、そしてそれに伴うウーバーイーツ配達員の報酬の大幅な低下がある。かつて効率を求めて特定の場所に集まっていた配達員たちは、稼働しても収入が得られないリスクを避け、自宅で待機する「自宅地蔵」へと戦略を転換している。この変化は、ギグワークにおける働き方の現実と、経済状況が個人の生計に与える影響を浮き彫りにしている。
参照元
https://news.yahoo.co.jp/articles/7247ccd03d2d956d6ff0abd0f477cdbef1198d3b