減少の一途をたどっている日本の書店。その数は、2014年度の1万4658店から2024年度には1万417店まで減少しており、この10年で3割減のペースで店舗が姿を消しています(日本出版インフラセンター調べ)。紙媒体の売り上げ低迷は広く知られる事実ですが、そのような厳しい状況下で近年、独立系書店や「街の本屋」と呼ばれる小規模な書店が独自の存在感を増しています。本稿では、日本の書店減少を取り巻く経営環境の現状について、『本の雑誌』編集発行人であり、NPO法人本屋大賞実行委員会の理事長も務める浜本茂氏にお話を伺いました。
減少が続く中で存在感を増す、活気ある独立系書店(街の本屋)の店内
書店減少の実態とコロナ禍の特殊要因
日本の書店数は長期的な減少トレンドにあり、特に地方や郊外での廃業が目立ちます。出版不況と言われる中で、大手チェーンも店舗網の見直しを進めるなど、業界全体が厳しい局面に立たされています。
2020年、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛や都心への人出減少が起きた際、住宅街に近い郊外書店では一時的に特需が見られました。特に『鬼滅の刃』の大ヒットなど複数の要因が重なり、児童書や学習参考書、資格関連書籍を中心に売れ行きが伸び、例年以上に繁盛する店舗が首都圏などで続出したのは記憶に新しい出来事です。
浜本氏は、「確かにコロナ禍では郊外の書店がバブルのような状態になりました。しかし、当時売れていたのは児童書・学参・資格関連などが中心でした」と振り返ります。この一時的な活況が新規顧客の定着につながる期待もありましたが、「現在は客足が都心へ戻っています。地方はもちろん、都内でも私鉄沿線にある書店はどんどん減っています」と、コロナ後の状況は再び厳しさを増している現状を指摘します。比較的堅調とされる児童書の読者が、成長と共に他のジャンルへと移行せず、スマートフォンなどのデジタルデバイスへ接触時間が増えるにつれて書店から足が遠のく傾向も、書店の未来にとって大きな課題となっています。
ネット通販・電子書籍の台頭と業界の変化
書店減少の背景には、ネット通販と電子書籍市場の拡大が大きく影響しています。Amazonをはじめとするオンライン書店は利便性の高さから多くの消費者に利用され、物理的な店舗を持たない強みで市場シェアを拡大しています。また、スマートフォンやタブレットの普及に伴い、電子書籍も着実に読者を増やしています。
このような環境変化は、出版流通にも影響を与えています。今年2月末には、出版取次大手である日販がファミリーマートとローソンへの雑誌・書籍の配送を終了しました。これは、コンビニエンスストアにおける雑誌販売の低迷と、物流コストの見直しによるものであり、業界全体の構造変化を示す出来事と言えます。
業界再編と収益性の課題
厳しい経営環境は、中小書店だけでなく大手チェーンにも波及しています。その一例として、京王電鉄の子会社であった京王書籍販売が、啓文堂書店の全株式を紀伊國屋書店に譲渡した件が挙げられます。2025年6月30日をもって、啓文堂書店は紀伊國屋書店グループの一員となります。
啓文堂書店は主に京王沿線を中心に駅ナカや駅チカの小・中規模店舗を展開しており、比較的集客力のある立地に店舗を構えています。それでも親会社である京王電鉄が書店事業を手放した背景には、書店の構造的な収益性の低さがあると浜本氏は見ています。「啓文堂は小・中規模の駅ナカ・駅チカ店舗がメインです。郊外型の書店よりも客足の多い立地にあるにもかかわらず、京王電鉄が手放すということは、書店の収益性の低さを物語っています」とコメントしています。
一方で、都市部を中心に大型店舗の運営ノウハウを持つ紀伊國屋書店が、駅チカ・駅ナカ店舗を多数持つ啓文堂書店をどのように再生させていくのか、今後の展開が注目されます。「ただ、都市部に大型店舗を展開してきた紀伊國屋のノウハウで、どこまで店舗数を維持できるのか注目したいところです」と浜本氏は付け加えています。
まとめ
日本の書店減少は止まらない流れであり、ネット通販や電子書籍の普及、そして出版物全体の販売不振が主な要因です。コロナ禍での一時的な郊外書店の活況も、長期的なトレンドを覆すには至らず、再び厳しい状況に戻っています。啓文堂書店の買収事例が示すように、駅チカの店舗ですら収益性の課題に直面しており、大手を含めた業界再編が進む可能性も示唆されています。このような逆境の中、地域に根ざした独立系書店などが独自の品揃えやイベントで存在感を増しているものの、日本の書店業界全体が厳しい現実と向き合っている状況は今後も続くと考えられます。