宇宙の謎:マルチバース理論とダークエネルギー問題

「95%わからない」とされる宇宙ですが、世界の宇宙物理学者たちは見えない、解き明かされていない謎に日々向き合っています。宇宙を語る上で欠かせない、量子重力における「マルチバース」の謎は、その最たる例と言えるでしょう。

宇宙の「一つだけ」という常識を疑う

私たちは普段、宇宙が「ユニバース(uni=一つの)」、すなわちたった一つだけだと考えがちです。具体的には、私たちの宇宙の空間は3次元で、素粒子は標準模型に従い、ダークマターやダークエネルギーが存在し、これらの物理法則や内容は宇宙のどこでも同じである、そしてそれが世界のすべてである、と捉えています。

しかし、この常識的な考え方では理解しがたい現象が存在するのも事実です。その最も顕著な例の一つが、ダークエネルギーの大きさに関する問題です。

マルチバースの概念を示す宇宙のイメージ(量子重力に関連)マルチバースの概念を示す宇宙のイメージ(量子重力に関連)

ダークエネルギー問題の深淵

量子力学における真空のゆらぎを考慮して、真空のエネルギー密度を理論的に評価すると、現在観測されているダークエネルギーの密度よりも、実に120桁も大きい値になるのが自然だと結論付けられます。つまり、観測されたダークエネルギーの密度は、理論予測値に比べて120桁以上も小さい必要があるのです。

多くの物理学者は、この真空のエネルギー密度を小さくするメカニズムを懸命に探求してきましたが、信頼できる有効な説明は見つかっていません。さらに、仮にそのようなメカニズムが存在したとしても、なぜそれが宇宙誕生から約138億年が経過した現在、宇宙の物質のエネルギー密度と同程度の値まで真空のエネルギー密度を小さくし、それ以上小さくしないのか、という点は完全に謎として残されています。

マルチバース仮説が提示する解決策

この深遠な謎に対し、一つの大胆な仮説が提示されました。ダークエネルギーが実際に観測によって発見されるより前の1987年、アメリカのノーベル賞物理学者スティーヴン・ワインバーグは画期的な論文を発表しました。

ワインバーグ氏は、「もし真空のエネルギーが異なる宇宙が数多く存在(マルチバース)するならば、真空のエネルギー密度が極めて小さいという問題は自然に解決される」と提唱したのです。この考え方に基づけば、多数の宇宙の中から私たちの宇宙のような生命が存在しうる環境が整った宇宙を選び出す(人間原理的な)視点から、真空のエネルギー密度が現在の物質密度とあまり変わらない値を取る理由が説明できる可能性が出てきます。

結論として、マルチバース理論は、現在の宇宙論における最大の謎の一つであるダークエネルギー問題に対し、私たちの宇宙が唯一無二ではないという可能性から新たな視点を提供し、まだ95%が未知数とされる宇宙の理解を深めるための一つの有力な仮説として、今も活発な議論の対象となっています。


参考文献: