最高裁、生活保護基準引き下げは「違法」…歴史的判決も専門家が抱く「不吉な予感」

2013年から2015年にかけて実施された生活保護基準の引き下げを違法とする訴訟が、生活保護受給者らによって提起されていました。そして2025年6月27日、この裁判に対する最高裁判決が下されました。最高裁第三小法廷は、2013年の引き下げを違法と判断し、原告の訴えを認めました。国家賠償請求は退けられましたが、生活保護制度における国の誤りを司法が明確に指摘した歴史的な判決です。しかし、この判決に触れた筆者(みわよしこ氏)は、手放しで喜べない複雑な心境を抱いています。なぜ歴史的な原告勝訴にもかかわらず、懸念が残るのでしょうか。

歴史的判決が告げられた瞬間

判決の日、2025年6月27日午後、最高裁判所正門前には数百人が集結していました。2013年の生活保護基準引き下げにより、健康で文化的な最低限度の生活を侵害されたと感じる制度利用者や、彼らを支える支援者、そして全国での集団訴訟をサポートしてきた法律家、多数のメディア関係者です。誰もが愛知県と大阪府の原告に対する初めての最高裁判決を待ちわびていました。傍聴席に入れなかった筆者は、正門前で判決を待ちながらカメラの準備をしていました。その時、スマートフォンを手にしていた人々から「勝った」という声が上がりました。画面を見せてもらい、生活保護基準引き下げ違法を認める原告勝訴を知った瞬間、思わず喜びの涙がこぼれました。

生活保護基準引き下げ違法判決後、最高裁判所から出てくる原告団と弁護団生活保護基準引き下げ違法判決後、最高裁判所から出てくる原告団と弁護団

長期にわたる困窮と司法の判断

2013年以降、生活保護世帯は基準引き下げに加え、家賃補助や冬季加算の減額、その他の細かい引き下げ、さらにはインフレやコロナ禍の影響を受け、生存をじわじわと削られ続けてきました。筆者は取材者として、まるで経済的DVやモラル・ハラスメントが目の前で行われているかのような状況を長年見続けてきたのです。そうした中、最高裁は「国が誤っていた」と明確に示したことは非常に重い意味を持ちます。これは、生活保護利用者たちが基準引き下げによって受けた権利侵害を司法が認めたことに他なりません。

日本の生活保護受給世帯数と受給者数の長期的な推移を示すグラフ(2024年版厚生労働白書などより)日本の生活保護受給世帯数と受給者数の長期的な推移を示すグラフ(2024年版厚生労働白書などより)

判決文が示す、手放しで喜べない現実

この最高裁判決は生活保護基準引き下げの違法性を認定し、「国が誤っていた」と断じた点で歴史的意義があります。しかし、その喜びや安堵の感情をどのような言葉で表現すればよいか、筆者には分かりませんでした。まさに英語で言う「beyond description(言葉にできない)」という感覚でした。そして数十分後、最高裁判決の判決文の詳細を確認したとき、心の中に「本当に喜んでいいのだろうか」という不安と、「不吉」な予感が再び湧き上がってきたのです。なぜなら、判決を読み進めるにつれて、国の違法行為によって長年苦しめられてきた原告たちの具体的な救済や、受けた損害の回復が本当に実現されるのか、疑問を抱かざるを得ない記述が見られたからです。

今後の課題と残された懸念

今回の最高裁判決は、生活保護基準引き下げの違法性を認め、国の誤りを司法が指摘した画期的な出来事です。長年の困窮を強いられてきた生活保護受給者や支援者にとって、これは大きな一歩となる勝利でした。しかし、判決文の内容からは、原告たちが経験した苦難に対する十分な救済や損害回復への道筋が必ずしも明確ではないという現実も浮かび上がります。歴史的な司法判断が下された今も、生活保護制度を巡る課題は多く残されており、その行方には注意深く見守る必要があります。

参照元

Yahoo!ニュース