キーウで10日朝、ウクライナ保安庁(SBU)の幹部職員が銃撃により死亡したと、ウクライナ当局が発表した。ソーシャルメディアで拡散された映像には、正体不明の襲撃者が駐車場でSBU職員に接近し、複数回発砲した後に逃走する様子が映っている。
事件の詳細と犠牲者
SBUは被害者の氏名を公表していないが、ウクライナの複数の報道機関は、殺害されたのはSBUのイワン・ウォロニチ大佐だと伝えている。ウクライナ当局によると、事件は現地時間午前9時ごろに発生した。
キーウ市内の駐車場でSBU職員が襲撃される監視カメラ映像
ロイター通信が検証した監視カメラ映像には、キーウ市南部ホロシイウスキー地区で、ジーンズと黒いTシャツ姿の男性(SBU職員とみられる)が建物から出て、ビニール袋とかばんを手に車へ向かう様子が映っている。そこに別の男性が駆け寄り、発砲する様子が確認されている。オンラインメディア「ウクラインスカ・プラウダ」は、匿名の情報筋の話として、襲撃者は拳銃を使い、SBU職員に向かって5発発砲したと報じている。
SBUの役割と影の戦い
SBUは、イギリスの情報局保安部(MI5)に相当する国内治安・防諜機関だが、2022年のロシアによる全面侵攻以降は、ロシアでの暗殺や破壊工作でも大きい役割を果たしてきたとされる。SBU消息筋は以前にもBBCなどに対し、2024年12月にロシアのイーゴリ・キリロフ上級大将を殺害した事件や、今年4月にモスクワで車爆弾によってヤロスラフ・モスカリク将軍が死亡した事件への関与を示唆している。ロシア政府はモスカリク将軍の死をウクライナ政府によるものだと主張したが、SBUは、こうした事件への関与を公式には認めていない。
当局の対応と捜査状況
キーウ市警は声明で、現場に到着した警察官が銃創のある男性の遺体を発見したと発表。容疑者の特定と拘束に向けた捜査を進めていると述べた。SBUも「事件の全容解明と犯人の法的責任追及に向けた包括的な措置を講じている」と述べている。現時点では、SBUもキーウ警察も、銃撃の動機については明らかにしていない。
大規模空爆の直後に発生
SBU職員の暗殺と思われるこの事件は、前の晩から9日朝までウクライナ全土を襲った過去最大規模とされるロシアによる空爆の直後に発生した。ロシアはこの攻撃で、ドローン728機とミサイル13発を使用し、キーウを含め複数の都市を攻撃した。続いて10日夜にもロシアは夜通しキーウを攻撃。この攻撃では少なくとも2人が死亡、16人が負傷した。キーウ当局によると、市内8地区が被害を受け、ミサイル18発とドローン400機が使用されたという。ウクライナは、ロシアが民間地域を意図的に標的にしていると繰り返し非難している。
前線と停戦交渉の状況
一方、前線では戦闘が続き、ロシア軍はウクライナ東部で徐々に前進しているほか、昨年夏にウクライナ軍が奇襲で一時的に奪取したロシア西部クルスク州の一部を再び掌握したとみられている。ロシアは現在、2014年に併合したウクライナ南部クリミア半島を含め、ウクライナ領土のおよそ2割を支配している。3年以上続くこの戦争の停戦交渉は難航しており、アメリカのドナルド・トランプ大統領はロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対するいら立ちを強めていると報じられている。
今回のSBU幹部の射殺事件は、ウクライナ国内の治安状況の厳しさを示すとともに、ロシアとの間の影の戦いの一端を垣間見せるものと言える。当局は事件の全容解明を急いでおり、今後の捜査の進展が注目される。
出典:BBC News、ロイター通信、ウクラインスカ・プラウダ、Yahoo News JP (https://news.yahoo.co.jp/articles/ebbf893fadc6f8d6a4fe90405d3bf105a5921e66)