【カービル(米テキサス州)=後藤香代】米南部テキサス州を襲った洪水から、11日で1週間となった。これまで州全体で120人以上が死亡し、160人以上が行方不明となっている。子供36人を含む96人が犠牲となったカー郡の住民は、津波のように渦巻く洪水の恐怖を振り返り、警報システム導入の必要性を訴えた。
カー郡の郡庁所在地、カービル近郊の住民、コーリー・ジョーンズさん(43)は4日午前4時頃、激しい雷鳴で目が覚めた。自宅は氾濫したグアダルーペ川のすぐそばにあった。携帯電話で気象情報をチェックすると、国立気象局から鉄砲水警報が出ていることに気付き、慌てて家族をたたき起こした。
室内はみるみるうちに浸水し、水位は上がり続けた。一家は屋根の上に避難し、雨に打たれ、寒さに震えながら救助を待った。ジョーンズさんは「僕たちは死ぬの?」と聞く8歳の息子を抱きしめ、神に祈り続けた。日が昇り、水が引き始めた頃、ようやく消防団のトラックがやって来た。
カー郡では、過去30年で100件近くの洪水が起きている。ジョーンズさんは以前から「洪水は生活の一部」と考えていたが、自身が住む地域に警報システムがないことは洪水の後で知った。「もっと早く起こしてくれる何かがあればよかった」と避難先のホテルで複雑な表情を浮かべた。
カービル市警の広報官、ジョナサン・ラム巡査部長(57)は非番だった4日午前5時頃、同僚からの電話で跳び起きた。鉄砲水警報が出ていたことを知り、市警のフェイスブックで住民に避難を呼びかけた。
午前4時半頃から通報を受けた警官たちは、下半身まで水につかりながら各戸を回り、高齢者ら200人以上を助け出した。一方、子供約750人が参加していたサマーキャンプ「キャンプ・ミスティック」の施設に続く道路は寸断され、救助は困難を極めた。
記者が「市警は前夜から警戒態勢を取っていたのか」と尋ねると、ラム氏は「特にそうではなかった。深刻な洪水は予想していなかった」と明かした。警報システムの不備が被害拡大の要因として挙げられる中で、ラム氏は「透明性の高い調査が行われる」と言葉を濁しつつ、「対策を見直す必要がある」と語った。