あっちにもタワマン、こっちにもタワマン。気付けば日本の街はタワマンだらけになった。2024年末時点で全国に1561棟という数字がその広がりを物語る。超高層マンションがその土地の生活、景観、価値を大きく変えてしまう一方で、その足元には長年培われてきた地元の人々の生活圏がいまも息づいている。本記事では、縦に伸びるタワマンではなく、横に広がる街に注目し、「タワマンだけじゃない街」の姿をリポートする。今回、散策したのは東京都中央区の埋立地にある「月島」。もんじゃストリートで有名だが、もんじゃとタワマンのほかにも実は興味深い店がたくさん存在する。
月島駅を出て西仲通り商店街へ
東京メトロ月島駅に降り立ち、地上に出ると、まずその対比に目を奪われる。少し歩くと、マンションデベロッパー大手7社が共同で運営するサイト「MAJOR7」で見た、2026年4月完成予定の「グランドシティタワー月島」のような超高層マンションが視界に入る。その価格帯は1億5800万〜3億2000万円という驚くべき金額だ。ため息が出るほど豪華な写真が掲載されていたが、そんな現代の象徴とも言える建物のすぐそばに、昔ながらの商店街が広がっている。人の流れに乗りながら歩いていると、自然と西仲通り商店街、通称「もんじゃストリート」にたどり着いた。
「もんじゃだけじゃない」多彩な商店街
この西仲通り商店街は、50軒以上のもんじゃ焼き屋が軒を連ねることで全国的にも有名だ。しかし、通りを歩いてみると、「もんじゃ焼き屋ばかり」というイメージはすぐに覆される。月島駅側から壱番街、弐番街と続き、四番街まで伸びるこの商店街には、洋品店、クリーニング店、スーパーマーケット、銭湯、書店、履物屋など、多種多様な個人商店がひしめき合っている。歩道を含めた通りの広さは約10メートルと、広すぎず狭すぎず、買い物をしながら気になった店に気軽に立ち寄れるアットホームな雰囲気がある。車道と歩道がきちんと分けられているため、安心して歩きやすいのもこの商店街の魅力だ。
月島にある超高層マンション「ミッドタワーグランド」と、その足元に広がる西仲通り商店街の様子。
3億円タワマンの足元にある老舗履物店
もんじゃ焼き屋ももちろん月島らしさを象徴するものだが、今回特に心惹かれたのは、もんじゃストリートの一角にある下駄専門店の「あづまや履物店」だ。店構えからして長い歴史を感じさせる。迎えてくれたのは、この道50年以上のベテランである四代目の店主、楠香一さん(72)だ。「この店はね、私で四代目です。創業した当初から店はあったというから、もう130年以上になるかな」と楠さんは語る。最新の高級タワマンが建ち並ぶエリアのすぐそばで、一世紀以上にわたり同じ場所で商いを続ける店の存在は、月島という街が持つ重層的な魅力、新旧が共存するさまを何よりも雄弁に物語っていた。
月島は単なる「タワマンの街」でも、「もんじゃの街」でもない。超高層ビル群の足元に、人々の暮らしが息づく商店街があり、そこで長い歴史を持つ個人商店が今も営みを続けている。縦軸の現代的な開発と、横軸の伝統的なコミュニティが交差する、東京の多様性を映し出す街なのである。