高齢者医療を支えてきた中規模病院が、次々に破綻している。
コロコロと変わる厚労省の政策に翻弄され、一時は破綻寸前まで追い込まれた病院もある。住民が高齢化した下町の病院長は、この医療制度の過酷な実態を明らかにし、この国の医療と介護をダメにした原因を指摘。日本の医療崩壊を大胆に予測する。
あと5年で行き場のないお年寄りが町にあふれることになる。地獄を回避したいなら、いまが最後のチャンスだ――(熊谷賴佳著『2030―2040年 医療の真実-下町病院長だから見える医療の末路』より一部抜粋・編集。全3回の1回目)。
■病院間をたらい回し、右往左往する高齢者
2040年には都市部は高齢者があふれ、介護が必要になった人の居場所が足りなくなりそうだが、その前にどんどん減りつつあるのが、病気の高齢者の入院先だ。この先、病院間をたらい回しになり、右往左往する高齢者が増えることになる。
私自身、数年前から、家族ががんや脳卒中、心臓病などで入院した知人や友人から、「転院先を探しているが、先生の病院に入院させてくれないか」とか「高齢者を入院させてくれる病院はないか」という相談を受けることが多くなった。
それというのも、これまで、がん、心臓病や脳血管疾患などの手術後などに、病状が安定しないために自宅へ帰れない高齢者の受け入れ先になっていた中小の一般病院や療養型の病院が減っているからだ。
医療法では病院を大きく、一般病床と精神病床などに分けている。
外見からは分かりにくいが、一般病床は、さらに、主に命に関わる病気などの治療をする高度急性期病院と急性期病院、その次の段階ともいえる亜急性期、リハビリを中心とした回復期、主に療養を目的とした病院に分けられる。
高度急性期、急性期、亜急性期の病院は、患者の人数に対する看護師の数によって、診療報酬で得られる保険点数が決まっている。
制度が複雑過ぎて医療関係者でも分かりにくいのだが、同じ病院の中に、急性期病床、回復期病床、療養病床など複数の機能の病床を持つ病院もある。
療養型の病院には、公的医療保険を使う医療療養型と介護保険を使う介護療養型があったが、この2つがほぼ同じような患者を受け入れていることが判明したことと、社会保険料を負担する現役世代の負担を減らす目的もあって、厚生労働省は2017年で介護療養型を廃止することを決定した。