ユネスコ世界遺産に登録されてからわずか一週間という短期間で、韓国の国宝である「盤亀台岩刻画(ばんきょだいがんこくが)」が、集中豪雨による増水で川の中に姿を消した。約4000年から5000年前の先史時代に、クジラや様々な野生動物の狩りの様子が刻まれた蔚山(ウルサン)の盤亀台岩刻画は、度重なる水没に見舞われてきた受難の歴史を持つ。
盤亀台岩刻画の受難:世界遺産登録直後の浸水
盤亀台岩刻画は、今月12日にフランスのパリで開催されたユネスコ世界遺産委員会で、盤亀川川前里(チョンジョンニ)の岩刻画と共に世界文化遺産リストに登録されたばかりだった。しかし、登録からわずか一週間後の19日昼、この地域を襲った集中豪雨により、隣接する盤亀川の水位が急激に上昇し、岩刻画は完全に水没した。
盤亀台岩刻画は、下流に位置する泗淵(サヨン)ダムの水位が53メートルを超えると浸水が始まり、19日午前5時にはすでに53メートルを超過。午後1時には57メートルに達し、岩絵が刻まれた壁面は泥水に完全に覆われた。岩刻画が水没したのは、2023年8月に台風6号「カヌーン」が襲来して以来、約2年ぶりのことである。1971年の発見以来、1965年12月に建設された泗淵ダムの増水によって度々浸水しており、2005年から2013年には年間平均151日間も水中にあったため、その損壊は深刻化の一途を辿っている。
蔚山の盤亀台。岩刻画の描かれた壁面が盤亀川の泥水につかる様子。
韓国各地に広がる豪雨被害:文化遺産の緊急事態
今回の豪雨は、慶尚道、全羅道、忠清道地域の文化遺産にも甚大な被害をもたらした。19日に一日で300ミリ近い雨量を記録した慶尚南道山清(サンチョン)地域では、土石流が発生し、国家指定宝物である「山清栗谷寺(ユルゴクサ)大雄殿」の壁の一部が損壊した。さらに、周辺の付属施設も大きく破損し、仏像が安置されている大雄殿内部の仏殿の前まで土砂が押し寄せた。栗谷寺は新羅の敬順王(キョンスンワン)在位期の930年に建立された古刹であり、現在の大雄殿は朝鮮中期の1679年に再建された、朝鮮時代の重要な建築遺産である。
豪雨による土石流で被害を受けた山清の栗谷寺。大雄殿の付属施設。
全羅南道宝城(ポソン)にある国家登録文化遺産「宝城の安圭洪(アン・ギュホン)・朴済鉉(パク・チェヒョン)家屋」では、母屋の裏手にある石垣が崩壊し、立ち入りが制限され、復旧作業が進められている。また、近隣の順天(スンチョン)の曹渓山(チョゲサン)麓に位置する国の名勝「曹渓山松広寺(ソングァンサ)・仙岩寺(ソナムサ)一円」では、進入路の約10メートル区間で土砂が流出し、規制線が張られている。
豪雨で土砂が押し寄せた山清の栗谷寺大雄殿の仏殿内部。
さらに、17日と18日には、慶尚北道慶州(キョンジュ)の石窟庵(ソックラム)への進入路横の斜面が崩壊したほか、忠清南道扶余(プヨ)の王陵園の一部の古墳の墳丘斜面が崩れる被害も報告されている。忠清南道礼山(イェサン)の尹奉吉(ユン・ボンギル)義士遺跡や瑞山(ソサン)の開心寺(ケシムサ)境内でも土砂流出が発生した。
国家遺産庁の対応と被害状況まとめ
国家遺産庁が発表した16日から20日午前11時現在の文化遺産の被害報告は合計8件に上る。内訳は史跡が3件、宝物が2件、国宝、名勝、国家登録文化遺産がそれぞれ1件となっている。地域別では忠清南道が4件、全羅南道が2件、慶尚北道と慶尚南道がそれぞれ1件の被害を確認している。国家遺産庁は、被害を受けた国家遺産周辺への立ち入りを禁止し、地方自治体と協力して二次被害を防ぐための緊急対応作業を進めている。
今回の豪雨は、韓国の貴重な文化遺産に深刻な爪痕を残した。特にユネスコ世界遺産に登録されたばかりの盤亀台岩刻画の水没は、自然災害に対する文化財保護の重要性を改めて浮き彫りにしている。今後、被害状況のさらなる詳細な調査と、復旧に向けた迅速かつ綿密な計画の実施が求められる。
参考文献
- 韓国国家遺産庁 報道資料
- ハンギョレ新聞 (japan@hani.co.kr)