中東和平の鍵を握る「2国家解決」に向けた国際会議が、28日から2日間の日程で米ニューヨークにて開催されます。今回の会議は、サウジアラビアと共同で主催するフランスのエマニュエル・マクロン大統領が24日、主要7カ国(G7)で初めてパレスチナを国家として承認する方針を表明したことで、その動向が国際社会の大きな注目を集めています。しかし、イスラエルやその主要な同盟国である米国はフランスの方針に強く反発しており、パレスチナ国家承認の機運がどこまで広がるかについては、依然として不透明な状況が続いています。
パリで撮影されたフランスのエマニュエル・マクロン大統領。パレスチナ国家承認と2国家解決に向けた国際会議への関与を示すイメージ。
マクロン大統領、パレスチナ国家承認の方針を表明
マクロン大統領は24日、自身のX(旧ツイッター)に「フランス国民は中東の平和を望んでいる。平和は可能だと示すのは我々の責務だ」と投稿し、9月の国連総会でパレスチナ国家の承認を正式に表明する意向を明らかにしました。これは、イスラエルとイスラム組織ハマスのガザ地区での戦闘が長期化し、国際的な批判が高まる中で示されたものです。フランスメディアによると、マクロン氏は5月にもイスラエルによるガザ封鎖を「恥ずべき行為」と非難し、パレスチナ国家の承認は「道義的な義務だけでなく、政治的な要請でもある」との見解を示していました。この発言は、停滞する中東和平プロセスに新たな動きをもたらす可能性を秘めています。
欧州諸国の対イスラエル圧力と国際会議の背景
ガザ情勢の深刻化に伴い、一部の欧州諸国はイスラエルに対する圧力を強めています。例えば、英国の労働党スターマー政権は5月、イスラエルとの自由貿易協定(FTA)の更新交渉を停止しました。さらに6月には、カナダやノルウェーなどが、イスラエルが占領するパレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区でパレスチナ人への暴力を扇動したとして、イスラエルの極右勢力に属する閣僚2人に対し、資産凍結などの制裁を科しています。
今回の国際会議は当初、6月中旬に予定されていましたが、イスラエルとイランの間の軍事衝突勃発により延期されました。その間にも、ガザ地区では人道危機が深刻化し、支援物資を求める住民が殺害されたり、餓死者が相次いだりする悲劇が繰り返されました。7月に入り、ガザの停戦に向けた交渉が本格化しましたが、イスラエルとハマスの複雑な駆け引きにより難航しており、明確な停戦の見通しは立っていません。こうした状況下で国際会議が開催されることになったのは、マクロン氏がこのタイミングでパレスチナ国家承認の方針を表明することで、「2国家解決」の議論に弾みをつけ、最終的にガザの停戦実現へとつなげたいという狙いがあると見られています。
国際社会の分断:イスラエル、米国、G7各国の反応
しかし、今回の国際会議が直ちに事態の打開につながるかは不透明です。パレスチナ国家の樹立に一貫して反対しているイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は24日、国家承認の動きは「テロに報いることになる」と強く非難しました。イスラエル国内の極右勢力に属するベザレル・スモトリッチ財務相もマクロン氏の発表に対し、対抗措置としてヨルダン川西岸地区の併合を要求するなど、強硬な姿勢を見せています。イスラエルの平和団体「ピースナウ」の報告によると、西岸地区のユダヤ人入植地の前哨地の建設数は昨年、過去最多を記録しており、イスラエルの実効支配が着々と進められている実情があります。国際会議への反発を背景に、イスラエルが今後、こうした動きをさらに加速させる恐れも指摘されています。
他のG7諸国がフランスに追随する可能性も低いと見られています。これは、各国がイスラエルの最大の支援国である米国との関係を重視しているためです。ドナルド・トランプ米大統領は25日、マクロン氏の発言を「重みがない」と一蹴し、今回の会議には出席しない方針を明確にしました。また、ナチス政権時代のユダヤ人大虐殺の歴史的経緯からイスラエルを強力に支持するドイツの政府報道官も25日、「短期的にはパレスチナ国家を承認する予定はない」と明言し、フランスとは異なる立場を明確にしています。
パレスチナ内部の課題と今後の見通し
さらに、今回の会議で仮にパレスチナ国家承認の動きが加速したとしても、イスラエルが方針を変えない限り、その実現は極めて困難です。パレスチナ内部にも複雑な課題を抱えています。ガザ地区を支配するイスラム組織ハマスと、ヨルダン川西岸地区を統治するパレスチナ自治政府の主流派ファタハの間では足並みが揃っておらず、統一された交渉を進める状況にはないのが実情です。
結論
このように、2国家解決に向けた国際会議とフランスによるパレスチナ国家承認の方針表明は、中東和平プロセスに新たな議論の火種を投じました。しかし、イスラエル、米国、そしてG7内部での意見の相違は根深く、さらにパレスチナ内部の分断もあいまって、今回の会議が事態の劇的な打開に繋がるか否かは、依然として予断を許さない状況が続いています。国際社会の複雑な駆け引きの中で、中東の平和への道は依然として険しいものとなりそうです。
[参考資料]