ストックホルム発-米中両国は29日、スウェーデンの首都ストックホルムで2日間にわたり開催された関税に関する閣僚級協議を終えました。この重要な対話は、世界経済、特に日米欧の貿易関係にも影響を及ぼす米中間の複雑な通商問題における新たな局面を示しています。中国の通商交渉官である李成剛氏は記者会見で、今回の協議では「突破口」は見いだせなかったものの、両国が5月中旬に合意した90日間の関税と輸出規制の一時停止措置を延長することで合意したと明らかにしました。この延長は、経済の不確実性が高まる中で、世界的な貿易環境に一定の安定をもたらす可能性を秘めています。
米中関税協議の成果と継続の条件
今回のストックホルムでの閣僚級協議は、米中間の経済的緊張緩和に向けた継続的な努力の一環として注目されました。ベセント米財務長官は会談後、両国の協議が「非常に建設的」であったと評価しつつも、「まだ技術的な詳細を詰める必要がある」との見解を示しました。さらに、今回の合意内容についてはトランプ大統領の最終承認が必要であると強調しました。
グリア米通商代表部(USTR)代表も同様に、「建設的な協議が行われたことは確かだ」と述べ、関税一時停止期間の延長がトランプ大統領の決定に委ねられていることを示唆しました。同氏は、90日間の延長がトランプ大統領が承認し得る選択肢の一つであるという認識を示しています。ベセント長官によれば、米中両国は90日以内に再度会談を行う可能性がありますが、今回の協議ではトランプ大統領と習近平国家主席の直接会談の可能性については議論されなかったとのことです。これは、今後の高レベルでの対話に向けた慎重なアプローチを示唆しています。
ベセント米財務長官がストックホルムでの米中関税協議に向かう様子
貿易関係の安定化と経済構造改革への要求
協議の焦点は関税問題に留まらず、米中両国の経済構造そのものにも及びました。グリア氏とベセント氏は、中国が国家主導の製造業を中心とした輸出経済から、より国内の消費者需要の増加を原動力とする経済へとシフトする必要性を強調しました。これは、米国が長らく求めてきた中国経済のより市場志向な改革への要求を反映しています。
中国国営の新華社通信は、協議後の声明として「中国と米国の協力は双方に利益をもたらすが、対立すれば双方に損害を与える。中国と米国の安定的で健全かつ持続可能な経済・貿易関係は、それぞれの発展目標の達成に資するだけでなく、世界経済の発展と安定の促進にも資する」と報じました。この声明は、米中間の安定した関係が両国のみならず、世界経済全体の発展に不可欠であるという共通認識を示しています。李氏は、米中双方が安定かつ健全な経済・貿易関係の維持が重要であることを十分に認識しており、今後もコミュニケーションを維持し、貿易・経済問題について「適時に意見交換」すると述べ、対話の継続の重要性を強調しました。
ロシア産原油と国際制裁に関する警告
今回の協議では、通商問題だけでなく、地政学的な問題も議論されました。トランプ大統領がロシア産原油を購入している国の輸入品に対し100%の追加関税を課すと警告していることについて、ベセント氏は、中国がロシア産原油の購入を続ければ高関税に直面する可能性があることを中国側に明確に伝えました。ベセント氏は、制裁対象のロシア産原油を購入する国に最大500%の関税を課すことをトランプ大統領に認める米議会の法案が、米国の同盟国に同様の措置を取ることを促すだろうと述べ、ロシア産原油を購入する国はこれに備えるべきだと語りました。
これに対し、中国当局者らは、中国はエネルギーを必要とする主権国家であり、石油購入は国内政策に基づくものだと反論したとベセント氏は述べています。ベセント氏は「中国は主権を非常に重視している。われわれは彼らの主権を阻害したくない。したがって彼らは100%の関税を払いたいのだろう」とコメントし、中国側の主張と米国の立場を対比させました。さらにベセント氏は、中国がロシアの兵器に使用されるような製品の売却を継続すれば、欧州との貿易関係強化に向けた中国の取り組みに悪影響を与えると警告したことも明らかにしました。
議題外の重要事項
今回の米中閣僚級協議では、多くの重要議題が話し合われましたが、一部の注目すべき点は議題に上りませんでした。具体的には、中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の将来に関する問題や、台湾当局者の動向については議論されなかったとのことです。これらの問題は、米中関係において依然としてデリケートな論点であり、今後の対話の場で取り上げられる可能性も残されています。
まとめ
今回のストックホルムでの米中関税協議は、「突破口」には至らなかったものの、90日間の関税一時停止措置の延長という具体的な合意をもたらしました。これは、両国が対話と交渉を通じて経済的安定を追求する姿勢を示しており、世界経済の不確実性を軽減する一歩となり得ます。しかし、中国経済の構造改革やロシア産原油購入を巡る地政学的な対立は依然として根強く、トランプ大統領の最終承認や今後の技術的な詳細の詰め方によって、米中関係の行方は引き続き流動的です。日本を含むアジア太平洋地域の国々にとって、米中間の経済・貿易関係の動向は、自国の経済政策や外交戦略を策定する上で極めて重要な要素であり、今後の展開が注視されます。