日本の医療は誰のものか?国民皆保険制度が直面する崩壊の危機

日本が誇る「いつでも、誰でも、どこでも」安心して医療を受けられる国民皆保険制度が、今、深刻な危機に瀕しています。全国各地で医師の偏在が起こり、多くの病院が経営難に陥り統廃合が進むなど、これまでの医療提供体制を維持することが極めて困難な時代へと突入しつつあります。この日本の医療システムは一体誰のためにあるのか、今こそ真剣に問い直す時です。

地域医療の現状と住民の不安

「唯一頼りにしていた病院であり、いつまでも守ってほしかった」「診療記録が統合先の病院にきちんと引き継がれるのか不安だ」「時間をかけて信頼関係を構築してきた先生や看護師さんと離れてしまうのは非常につらい」──。

兵庫県において、市立伊丹病院との統合により新病院設立を予定していた近畿中央病院(近中病院)は、来年3月での診療休止を決定しました。新病院開院までは、主に市立伊丹病院が患者を受け入れることになります。7月13日に開催された住民説明会には約190人が詰めかけ、不安や質問が相次ぎ、予定時刻を大幅に超過するほどの関心の高さが伺えました。この事例は、地域住民にとって医療機関がいかに生活に不可欠であるかを浮き彫りにしています。

病院経営の窮状と医師不足の深刻化

現在、日本の多くの病院が経営的に追い詰められています。「全国の病院の約7割が赤字」という報道は、この危機的状況を端的に示しています。都市部の医療機関勤務を志望する医師の増加や、特定の診療科への集中、さらに医師の働き方改革による時間外労働の上限設定が相まって、必要な地域や診療科で医師が不足する事態が生じています。これにより、多くの病院で安定した医療提供体制の維持が困難になりつつあるのが現状です。

日本の医療崩壊と病院統廃合の現状、地域医療への影響日本の医療崩壊と病院統廃合の現状、地域医療への影響

新病院建設の遅延と診療休止の選択

冒頭で触れた新病院は、当初今秋の開院予定が2027年度後半にまでずれ込むことになりました。建設工事の入札不調が二度にわたって発生したことや、開院予定地の自然由来成分による土壌汚染が判明し、対策工事が必要になったことが主な要因とされています。

地方の中核病院として長年地域住民の健康を支えてきた近中病院ですが、施設の老朽化が著しく進行していました。しかし、年間10億円以上という巨額の赤字を抱える状況と、建設費の高騰により、施設の改修工事を行う余裕はありませんでした。新病院開院まで診療継続を目指していたものの、最終的には「診療休止」という苦渋の選択を迫られたのです。この事例は、病院の経営難が地域医療に直接的な影響を及ぼす現実を示しています。

結び

日本の国民皆保険制度は、その公平性とアクセスの良さで世界に誇れるシステムです。しかし、病院の経営悪化、医師の偏在、そしてそれに伴う医療提供体制の脆弱化は、この制度の根幹を揺るがしています。地域住民の不安の声は、単なる一病院の問題ではなく、日本全体の医療システムが抱える構造的な課題を浮き彫りにしています。将来にわたって質の高い医療を誰もが享受できるよう、今一度、医療のあり方、その持続可能性について国民全体で考え、具体的な対策を講じることが急務となっています。

参考文献