人間関係における悩みは尽きることがありません。特に「優しい人」ほど、他者との関わりの中で自分の時間やエネルギーを奪われ、知らず知らずのうちに疲弊してしまうことがあります。精神科医Tomy氏の著書『精神科医Tomyが教える 1秒で不安が吹き飛ぶ言葉』(ダイヤモンド社)で語られる洞察は、このような状況に陥りがちな人々にとって、心の安定を取り戻すための指針となります。本記事では、他者からの「相談」を通して私たちのリソースを奪う「テイカー」と呼ばれる存在から、いかに自己防衛するかについて解説します。
精神的に自立した人、そうでない人:相談の質の決定要因
私たちは日常的に、友人や知人から「ちょっと相談があるんだけど…」と声をかけられることがあります。その際、快く耳を傾けられる場合と、何となく億劫に感じてしまう場合があるのではないでしょうか。この感覚の違いには、相手が「自分のことを自分でできる人」、すなわち精神的に自立しているかどうかが大きく関わっています。
自立した人からの相談:生産的な交流
精神的に自立し、自身の問題に真摯に向き合っている人からの相談は、私たちも構えることなく向き合えます。彼らが抱える問題に対する助言は、たとえわずかでも相手の役に立てる喜びを感じさせ、むしろ前向きな気持ちにさせてくれるものです。このような関係は、互いにとって有益な交流と言えるでしょう。
自立していない人からの相談:終わりのない要求への発展
対照的に、精神的に自立していない人からの相談には、最初から違和感を覚えることがあります。その理由は、こうした相談は一度では終わらず、要求がエスカレートしていく可能性が高いからです。話を聞き続けた結果、「これもお願い」「次も手伝ってほしい」と次々に頼まれ、最終的には「やってあげるのが当然」という雰囲気が醸成されてしまうことも少なくありません。
境界線を侵す「テイカー」の存在とその特徴
こうした他者のリソースを無自覚に奪う人々は、心理学でいう「テイカー」に似た存在です。テイカーとは、常に自身の利益を優先し、他人から一方的に多くを受け取ろうとする人々のことです。彼らは、他者の時間やエネルギーといったリソースを奪っていることに気づかず、ずるずると他者の生活圏に踏み込んできます。最初は「相談」という形をとっていても、次第に「あれもこれもお願い」という状態に発展し、助けてもらうことを当然視するようになります。
テイカーとの人間関係でストレスを感じる場面。精神的負担を避けるための境界線を示す。
自己防衛の鍵:最初の見極めと適切な断り方
テイカーによる消耗を防ぐためには、人から相談された際の最初の対応が非常に重要です。その瞬間に「この人は精神的に自立しているか?」と一度立ち止まって考えることを強くお勧めします。相手が精神的に自立している場合は問題ありませんが、そうでない場合は特に注意が必要です。もし、その相談が自分にとって「少し嫌だな」「乗り気になれないな」と感じた場合は、自分の心を守るために、やんわりと断る勇気を持つことが大切です。
自分の気持ちに正直になる勇気:消耗を防ぐ第一歩
多くの人は、「嫌われたくない」「断ったら悪い人だと思われるかもしれない」といった感情から、つい他者の頼み事や相談を引き受けてしまいがちです。しかし、そのような「優しい人」こそ、自己犠牲によって疲弊してしまうリスクが高いのです。精神科医Tomy氏も自身の経験から、嫌だと感じた時には正直に「今回はごめんね」と断り、逆に快く対応できる時には積極的に耳を傾けるという姿勢を貫いています。
他者の相談を受け続けているうちに、気づけば相手の言いなりになり、自分自身が苦しくなってしまうことは避けなければなりません。だからこそ、「相談があるんだけど」と声をかけられた最初の瞬間こそ、相手との適切な距離感を見極め、どこまで踏み込むべきかを冷静に判断することが、自分を守るための極めて重要なステップとなるのです。
参考文献
- 精神科医Tomy (2020) 『精神科医Tomyが教える 1秒で不安が吹き飛ぶ言葉』 ダイヤモンド社.