選挙で敗北した政党のトップが責任を取り辞任する。これは長らく日本の政治における「常識」とされてきました。しかし、直近の参院選を含む三度の選挙で自民党が敗れる中、石破茂首相に対する辞任論が党内にとどまり、一般有権者の間には広がっていないという特異な状況が生まれています。この異例の展開は、従来の政治常識では説明しきれない国民感情の変化を示唆しています。本稿では、臨床心理士の岡村美奈氏による分析に基づき、石破政権の支持率が急上昇している背景と、なぜ「石破おろし」が国民世論に受け入れられないのかを深掘りします。
選挙連敗と党内からの「石破おろし」
去年の衆院選、今年の都議選、そして今年の参院選と、自民党は石破首相のもとで三度の国政選挙・重要地方選に敗北を喫しました。党内の議員たちからすれば、「選挙で負ければただの人」という厳しい現実が常に頭をよぎるものです。次の選挙が間近に迫っているという危機感から、現職首相である石破氏を交代させ、党勢回復を図りたいという「石破おろし」の動きが活発になるのは、党内論理としては理解できます。実際、自民党内では石破首相の辞任を求める声が上がっていました。
自民党本部での役員会に出席する石破茂首相と森山裕幹事長。石破政権の支持率と党内情勢を示す場面。
国民世論の乖離:敗北の責任は「党全体」にあり
しかし、党内からの辞任論とは裏腹に、石破政権の支持率は急上昇を見せています。最近の各新聞社などによる世論調査では、内閣支持率が軒並み3割台を回復。「石破首相は辞任すべきだ」と「思う」という回答よりも、「必要ない」とする回答が増加しました。たとえそれが、「他に適切な首相候補がいない」「政権交代できる野党がない」といった消極的な支持であったとしても、この国民世論の動向が「石破おろし」の動きを阻んでいます。
国民世論が党内論理と異なるのは、選挙敗北の責任を石破首相個人に帰するのではなく、自民党自体の問題と捉えている人が増えているためです。有権者の目には、自民党議員による「石破おろし」は、自らの責任や失敗を石破首相に押し付け、生贄として差し出す「責任転嫁」に見える可能性が高いのです。
石破首相の「党内弱者」イメージが招く皮肉な結果
この「責任転嫁」の印象を一層強めているのが、石破首相の党内での立ち位置です。石破氏は長年、党内政治において強い影響力を持つ存在とは見なされてきませんでした。特に「一強」と称された安倍政権下では要職に恵まれず、首相就任後も「党内に味方が少ない」と報じられるなど、その党内での影響力の弱さが指摘されてきました。
もし石破首相が党内で絶大な権力を持ち、要職を独占してきた人物であったなら、「石破おろし」に反対する国民は少なかったかもしれません。しかし、党内で弱い立場にあった石破氏を、選挙敗北の責任を負わせる形で追放しようとする動きは、国民にとって、自己保身に走る自民党の「責任転嫁」として映りやすいのです。石破氏の「党内弱者」というイメージが、皮肉にも国民の共感を呼び、彼を「石破おろし」から守る形になっていると言えるでしょう。
結論
石破政権の支持率急上昇と「石破おろし」が国民世論に受け入れられない背景には、「選挙敗北の責任は自民党全体にある」という国民の認識と、党内での影響力が弱かった石破首相をスケープゴートにしようとする党の動きが「責任転嫁」に映るという構造があります。これは、従来の政治リーダーの退任基準が、現代の国民感情とは乖離している可能性を示唆しており、今後の日本の政治状況を読み解く上で重要な視点となるでしょう。
参考文献
- 各新聞社などによる世論調査報道
- 政治アナリストの見解
- 臨床心理士 岡村美奈氏による分析