ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は8月29日、ロシアとの和平交渉の一環として両軍の間に緩衝地帯を設けるという提案を明確に否定しました。大統領は記者団に対し、この提案は現代戦、特にドローン技術が支配する紛争の「技術的な状態」を理解していないと指摘。この発言は、欧州首脳らが停戦または長期的な合意の一部として、最長40キロメートルの緩衝地帯設置を検討しているという報道を受けてのものです。
緩衝地帯案への明確な拒否とドローンの影響
ゼレンスキー大統領は、ドローン技術の進歩によって、前線付近にはすでに事実上の緩衝地帯が存在しているとの見解を示しました。彼は、「お互いの重火器は現在、10キロ以上離れて配置されている。何もかもドローンによって攻撃されるからだ」と述べ、ドローン攻撃の脅威が既存の戦闘様相を変化させていると強調しました。大統領はこの地域を「死の地帯」または「灰色地帯」と呼び、それがすでに現実として存在すると指摘しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領が記者会見で発言する様子。ロシアとの和平交渉における緩衝地帯設置の提案を拒否した。
領土放棄の可能性とロシアへの要求
さらに、ゼレンスキー大統領は緩衝地帯の設置がウクライナの領土の一部を放棄することにつながる可能性を懸念し、この点からも提案を拒否しました。「ロシアが我々との距離を広げたいなら、ウクライナで一時的に占領している地域の奥深くへ撤退すればいい」と強く述べ、ロシア側に責任があると主張しました。緩衝地帯は、対立する勢力間を引き離すために設置される地域であり、朝鮮半島の非武装地帯や冷戦期の東西陣営間の障壁など、歴史的に様々な形態が存在します。しかし、現在のウクライナ戦争においては、その概念がドローン戦術によって再定義されている形です。
ロシアの外交姿勢と停滞する和平交渉
ゼレンスキー大統領は、ロシアが外交に応じる準備ができておらず、むしろ戦争終結を先延ばしにする方法を模索していると批判しました。ロシアによるウクライナ侵攻開始から3年半以上が経過する中、アメリカ主導の外交努力は停滞しています。ドナルド・トランプ米大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領の会談後、ゼレンスキー氏とプーチン氏の首脳会談への期待が高まりましたが、現時点ではその可能性は薄れているとされています。ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、プーチン氏が会談に参加したがらないようだと発言し、ロシアの消極的な姿勢を指摘しました。
ロシアによる大規模空爆と国際社会の反応
8月28日未明には、ロシアがウクライナの首都キーウに対して計629発のドローンとミサイルを撃ち込み、23人が死亡するという大規模な空爆が発生しました。これは戦争開始以来最大規模の一つとされ、欧州指導者らは強く反発しています。欧州連合(EU)代表部事務所の近くにもミサイルが着弾し、事態の深刻さを浮き彫りにしました。メルツ独首相とエマニュエル・マクロン仏大統領は、プーチン氏が戦争終結にほとんど関心を示さないことを理由に、ロシアへの圧力を強める方針を表明。EUのカヤ・カラス外務・安全保障政策上級代表は、ロシアの攻撃を「意図的なエスカレーションであり、和平への努力を損なうものだ」と非難しました。
ウクライナの安全保障とロシアの反論
欧州の指導者らは、将来的にロシアとの和平合意が成立した場合にウクライナの安全を保証するための枠組みを検討しています。カラス氏は、EU加盟諸国の防衛相らが「強固かつ信頼できる」保証の仕組みを提供する必要があるという点で一致したと述べ、ゼレンスキー氏も「NATO型」の保証に関する協議が続くだろうと語りました。一方、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、西側諸国の最新提案を「一方的」であり、ロシア封じ込めを目的としていると批判。「安全の保証は、ロシアの安全保障上の利益を考慮した、共通理解に基づくべきだ」と反論し、今後の交渉における複雑な課題を示唆しています。
出典
- BBC News (英語記事 Zelensky rejects proposals for buffer zone to end Ukraine war)
- Yahoo!ニュース (記事元:BBC News)
- Politico (報道内容の参照元として)