総合診療医が大学病院で果たす使命:複雑化する現代医療への全人的アプローチ

近年、医療現場における「総合診療医」の存在が改めて脚光を浴びています。TBS系ドラマ『19番目のカルテ』が大きな反響を呼んだことからも、その関心は医療従事者だけでなく、広く一般社会にも浸透しつつあります。従来、地域医療の中核を担うイメージが強かった総合診療医ですが、実は高度な専門医療を提供する大学病院においても、その役割が不可欠となりつつあります。少子高齢化が進み、医療が複雑化する現代において、総合診療医が大学病院で果たすべき使命とは何か。順天堂大学医学部総合診療科で診療、教育、研究、マネジメントを多角的に担う齋田瑞恵准教授に、その現状と未来について伺いました。

総合診療医への高まる注目とその背景

「臓器を診る」から「人を診る」医療への転換

齋田准教授が総合診療という道を選んだ原点は、「臓器を診るのではなく、人そのものを診る医療」への強い思いでした。幼い頃、祖父から受け継がれた「凡医尽人(平凡な医師ほど、人のために尽力する)」という言葉は、彼女の医師としての哲学に深く影響を与えています。単一の症状だけでなく、その背景にある患者の生活環境や心理的要因にまで目を向け、全体像を把握する姿勢こそが、医療の本質であると齋田准教授は語ります。総合診療という分野がまだ広く認知されていなかった時代には、「何でも屋」と誤解されることもありましたが、現場に立つことで、専門医だけでは対応が難しい患者がどれほど多いかを痛感したと言います。

複雑な症例と多疾患併存への対応:大学病院での専門性

現代医療の現場、特に大学病院では、複数の健康問題を抱える患者が増加しています。例えば、高血圧、糖尿病、軽度認知症といった複数の疾患を併存する高齢患者は珍しくありません。このような場合、複数の診療科にまたがる診断と治療が必要となり、各専門科の視点だけでは患者全体への最適なアプローチを見出すことが困難になります。ここで総合診療医が果たす役割は極めて重要です。彼らは、個々の専門科の知見を統合し、患者の全体像を俯瞰することで、最適な治療方針を立案する「つなぎ役」であり「調整役」となるのです。

大学病院で多岐にわたる患者に対応する総合診療医大学病院で多岐にわたる患者に対応する総合診療医

順天堂大学総合診療科では、外来診療および病棟で日々多岐にわたる相談に対応しています。特に「複数疾患の併存による診療の複雑化」や「診断が難航する症例」は頻度が高く、総合診療医の専門性が真価を発揮する領域です。高齢化が急速に進む日本社会において、臓器別専門医のみでは見落とされがちな患者のニーズに応え、全人的な医療を提供できる総合診療医の価値は計り知れません。

大学病院が抱える課題と総合診療科の役割

大学病院は、高度な専門性を有する各診療科が集結している反面、患者にとっては「どの診療科を受診すべきか」が分かりにくいという構造的課題を抱えています。症状が多岐にわたったり、複数の臓器にまたがる問題であったりする場合、患者自身が適切な専門科を選択することは困難です。このような状況下で、総合診療医は患者の「最初の窓口」として機能し、症状を総合的に評価して適切な診療科への案内や、複数の専門科にわたる治療計画のコーディネートを行います。これにより、患者の負担を軽減し、より効率的で質の高い医療アクセスを提供することが可能となります。

日本の未来医療を支える総合診療医の展望

総合診療医は、単に「何でも診る」だけではなく、複雑化する現代医療において、患者一人ひとりの多様なニーズに応える「全人的医療」の担い手として、その重要性を増しています。大学病院という高度医療の最前線で、専門医と連携しながら患者中心の医療を推進する彼らの役割は、日本の超高齢化社会が直面する医療課題を解決する上で不可欠です。今後、総合診療医の専門性と経験がさらに広く認知され、医療システム全体でその価値が最大限に活用されることで、より質の高い、持続可能な医療提供体制が築かれることが期待されます。