三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』でも描かれている通り、東京大学への現役合格を目指す受験生にとって、東大模試は非常に重要な試金石となります。しかし、多くの受験生は模試を単なる「成績判定の場」と捉えがちです。現役東大生である筆者の経験から見ても、東大模試は本番の入試とは異なる特性を持ち、それを理解した上で「実験場」として戦略的に活用することが、合格への鍵を握ります。本記事では、東大模試と本番の入試形式の具体的な違い、そして模試を最大限に活かすための戦略を詳述します。
漫画『ドラゴン桜2』の主人公、天野晃一郎と早瀬菜緒が東大模試に挑む姿。受験生の緊張感と模試の雰囲気を表現。
東大模試と本番の違い:予測不能な入試形式
東大模試は、ある意味では実際の入試よりも「守り」に入った出題が多いと言えます。つまり、新形式の問題や大幅な変更はあまり見られず、数学は文系4問、理系6問、国語は古文と漢文がそれぞれ1題ずつといった、従来の形式を踏襲する傾向があります。
しかし、実際の東京大学入試では、過去の慣例にとらわれず、思いがけない形式変更が行われることがあります。例えば、筆者が受験した2024年の世界史では、伝統的な「第1問に600字の論述問題」という形式が変更され、400字と200字の小論述が2問出題されました。400字の論述が世界史と政治経済の境界のような近現代からの出題だったことに、拍子抜けした記憶があります。また、2025年の入試では、文系国語の第4問で例年の随筆ではなく物語文が出題され、多くの受験生が驚いたことでしょう。
共通テストの場合、大幅な形式変更は事前にアナウンスされることがありますが、それでも細かい変更は本番で初めて明らかになることがほとんどです。そのため、試験開始直後に問題数(マークシートの番号数)を確認する習慣をつけましょう。過去問や模試から数問でも増えていれば、完答を狙うにはハイペースで解答を進める必要があります。特に英語では、問題数がわずかに増えただけで、問題文の総字数が数百文字増加している可能性も考慮に入れるべきです。
模試を「実験場」として活用する戦略
本番で予期せぬ形式変更があるからといって、模試が無意味だということは決してありません。冠模試(各大学に特化した模試)の最大の価値は、本番と全く同じ時間配分と解答欄の条件を試すことができる点にあります。
時間配分と解答順序の最適化
模試では当然、本番と同じ回答時間が用意されます。塾によっては、開始時刻まで本番に合わせる場合もあります。これは、各教科において「第何問に何分使うのか」という、自分だけの時間配分戦略を練る絶好の機会です。特に、東大理系の理科と文系の社会は「2科目で合計150分」という時間制限があり、各科目に均等に時間を割く必要がないため、より高度な戦略性が求められます。
英語では、全部で5つある大問(セクション分けされているものも含む)を、どの順番で解いていくかが合否を分けます。配点は低いものの難問として知られる5択の問題を、あえて勘で答える受験生も少なくありません。中には、本番の音声環境の悪さを想定し、30点分のリスニングを丸々捨てるという大胆な戦略を取る受験生もいます。全て5択である点を考慮すれば、全て勘で答えても期待値的に6点程度は取れるため、他の大問で高得点が見込めるのであれば、決して悪い賭けではないかもしれません。
解答用紙の特性と戦略的利用
あまり意識されることはないかもしれませんが、解答欄も模試の中でこだわりを持って作られています。本番と同じサイズなのはもちろん、選択科目を選ぶ際に解答用紙の一部を切り取る部分まで再現されていることがあります。
特に注意してほしいのは国語の解答欄です。とにかく解答欄が小さく、あまりの小ささに「1行に2行書くことがないよう」という注意書きがあるほどです。文系の場合は、解答用紙の方眼紙の使い方にも戦略性が出ます。問題用紙の空きページに下書き用の方眼紙があるのですが、これが90度回転しているため、筆者は解答用紙の空きマスに下書きを書き、後で消すように工夫していました。
東大模試は、単に問題を解くだけの場ではありません。1問1問に真剣に向き合うのは当然ですが、それ以上に、試験全体を見通した上での戦略、時にはやや挑戦的なアプローチを試せる絶好の機会と捉えましょう。
参考文献
- 土田淳真 (現役東大生 文科二類)
- 連載:「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」