「JICAアフリカ・ホームタウン」事業を巡り、日本の複数の地方自治体で抗議電話が殺到し、業務に支障が出るほどの大混乱が生じています。この国際交流事業が「日本に移民が押し寄せる」と誤解されたことが原因ですが、背景にはナイジェリア政府による意図的な情報操作の可能性も指摘されており、国内外で波紋を広げています。
「日本乗っ取り」「移民殺到」の懸念と自治体の混乱
日本政府主催の「アフリカ開発会議(TICAD)」内で発表された「JICAアフリカ・ホームタウン」事業は、日本の四つの地方自治体がアフリカ諸国の「ホームタウン」として認定され、多角的な交流を深めることを目的としています。しかし、この事業が報じられると、インターネット上で「日本が乗っ取られる」「移民で埋め尽くされてしまう」「外国人犯罪が多発する」といった批判が噴出しました。
特に、ナイジェリアのホームタウンに認定された千葉県木更津市では、先月25日から今月1日までの6日間(土日を除く)で、代表電話にかかってきた電話のうち6400件がこの件に関する問い合わせだったと推測されるほどです。同様に認定された山形県長井市や新潟県三条市でも、市民からの抗議や問い合わせが殺到し、通常の行政業務が滞る事態に陥りました。
JICAアフリカ・ホームタウン事業に関する抗議電話対応に追われる千葉県木更津市役所の職員たち
ナイジェリア側の「特別ビザ」誤報とSNSの拡散
日本の自治体が混乱に陥る一方で、JICAから木更津市が「ホームタウン」と認定されたナイジェリアでは、当初「狂喜乱舞」とも言える反応が見られました。同国大統領府は公式プレスリリースで、一時的に「日本政府が、ナイジェリア人が就労するための特別ビザを発給する」と発表したのです。
これを受けて、現地のSNSアカウントからは「黒人の町が日本に!仲間よ、行こう」「われわれは子供を作るし一生懸命働く」といったメッセージが投稿され、瞬く間に日本のネットユーザーの間へ拡散し、大炎上となりました。アフリカから大量の移民が日本へやって来る、と受け取った人々が強い義憤に駆られ、各地の自治体へ抗議行動を起こしたというわけです。
誤報か、意図的な「情報操作」か?専門家の見解
今回のナイジェリア政府による「特別ビザ発給」に関する情報は、単なる誤解や誤報だったのでしょうか。農業と食料の専門家で、アフリカの現地事情にも詳しいジャーナリストの浅川芳裕氏は、意図的な「情報操作」の可能性を指摘しています。
浅川氏によると、ナイジェリアは「大統領府情報局」と「情報・国家指導省」という二元的な国策広報体制を敷いています。日本側からの抗議を受け、前者は対外的に声明を修正したものの、後者が主導するSNSでは、国内向けに出された「日本へ移住できる」という趣旨の説明が、いまだに放置され続けているというのです。このことは、今回の情報が単なる間違いではなく、国内向けに特定の意図を持って流された「偽情報」であった可能性を示唆しています。
まとめ
「JICAアフリカ・ホームタウン」事業を巡る一連の騒動は、国際協力と情報伝達の難しさを浮き彫りにしました。ナイジェリア政府による「特別ビザ発給」という誤った情報、あるいは意図的な情報操作が、日本の社会に大きな混乱と移民問題への懸念を引き起こし、自治体の業務に深刻な影響を与えています。正確な情報共有と透明性の確保が、国際交流事業を円滑に進める上でいかに重要であるかを示唆する事例と言えるでしょう。