新浪会長辞任から読み解く日本の大麻規制法改正:CBD専門家の視点

2025年9月2日、サントリーホールディングスの新浪剛史会長が緊急記者会見を開き、海外で購入したサプリメントに違法成分が含まれていた可能性を理由に、会長職を辞任すると発表しました。違法性の有無にかかわらず、最高責任者としての認識の甘さが問われ、この決断に至ったとされています。新浪氏は経済同友会の役職についても辞任する見通しです。

CBDスタートアップ企業ワンインチの柴田として、この問題の報道以上の確定情報はないものの、CBD専門家の視点から客観的事実を中心に、この事態を多角的に整理し、読者の皆様に問題の解像度を高めていただきたく、詳細な見解を述べさせていただきます。特に、メディアが報じる法的な側面における誤解を解き、現在の日本の薬物規制法の正確な理解を深めることを目的とします。

サントリーホールディングス新浪剛史会長、緊急記者会見で辞任を表明サントリーホールディングス新浪剛史会長、緊急記者会見で辞任を表明

1. 問題の二面性:企業としての責任と法的解釈の分離

この問題を論じる上で、まず「会社としての職を辞する」という側面と「法的な違法性の有無」という側面を明確に分けて考える必要があります。前者については、サントリーの内部関係者や株主などのステークホルダー以外が意見することは適切ではありません。しかし、サントリーは他のサプリメントメーカーや飲料メーカーと比較して、CBDが業界内で注目された際も積極的な検討をしてこなかった経緯があります。その意味で、薬物に関わる問題意識に対して、より一層強いガバナンスが求められていたと推察されます。

逮捕や起訴に至っていない状況下での早期退陣、しかも自民党の重要会合が開かれる日に合わせての決断は、その重みが計り知れません。これは企業ガバナンスにおける責任の重さを物語っています。

一方、後者の法的解釈については、専門家として一般論を提示することが可能です。この問題を正しく理解するためには、まず正確な法令認識が不可欠です。

2. メディアの誤報と正確な法名称の必要性

今回の事件に関して、東京新聞は初報で「大麻取締法違反」と報じ、その後「麻薬取締法」と表記を変えましたが、これらはいずれも不正確です。2023年の法改正により、大麻取締法は「大麻草の栽培の規制に関する法律」へと名称が変更され、役割も栽培規制に特化しました。また、「麻薬取締法」という法律はすでに廃止されており、現在は存在しません。

正確には「麻薬及び向精神薬取締法違反の可能性」と表現すべきでしょう。メディアには、薬機法を「薬事法」と表記しないのと同様に、正確な法令名称を用いる責任が求められます。このような誤報は、一般の認識に混乱を招きかねません。

3. 大麻取締法改正の背景と主要な変更点

大麻取締法(現・大麻草の栽培の規制に関する法律)は2023年末に改正され、2024年末から施行されています。改正前は、大麻草の部位による規制が敷かれており、成熟した茎や種子は合法、それ以外の部位は違法とされていました。医療での使用も認められず、新規の栽培免許もほとんど交付されない状況でした。制定当初は、繊維や神事に使う麻、七味唐辛子や鳥の餌に使う種子などを守る産業法規としての意味合いが強かったものの、薬物政策の中で「麻」のイメージが損なわれ、産業利用が困難な状態に陥っていました。

しかし、近年では難治性てんかん治療における医療用大麻の活用や、THC(テトラヒドロカンナビノール)が低いヘンプの産業利用が世界的に広まっていました。日本でも限定的な大麻の活用を認めるべきだという議論が高まり、これを受けて大麻取締法の改正という戦後の方針転換が進められたのです。

この法改正により、規制は部位規制から成分規制へと移行しました。現在、CBD(カンナビジオール)は合法であり、THCなどの精神作用を持つ成分は「麻薬及び向精神薬取締法」における麻薬として取り扱われることになりました。また、医療用に承認されたカンナビノイドは、医師の処方に基づいて使用できるようになっています。栽培に関しても、THC含有量が0.3%未満の品種であれば、各都道府県の許可に基づき、全国統一のルールで新規参入が可能となりました。

4. 法改正が残した課題

しかし、このような大規模な法改正が行われたにもかかわらず、日本の大麻・CBD規制には依然として複数の課題が残されています。これらの課題については、今後も継続的な議論と対応が求められることになります。

結論

サントリーホールディングスの新浪会長辞任という一連の騒動は、単なる企業トップの交代に留まらず、日本における大麻およびCBD関連製品に対する認識と法規制のあり方に改めて光を当てる機会となりました。企業のガバナンス責任と法的解釈の分離、そしてメディアの報道における正確な法令名称の重要性は、今回の件で改めて浮き彫りになった論点です。

特に、2024年末に施行される大麻取締法の改正は、規制の枠組みを大きく変えるものであり、CBDの合法性やTHCの麻薬としての扱い、さらには医療用大麻の承認など、多岐にわたる変更を含んでいます。こうした法改正の正確な内容を理解することは、事業者だけでなく一般の消費者にとっても極めて重要です。この問題を通じて、日本の薬物規制に関する社会全体の理解が深まることを期待します。