伊東市は、田久保眞紀市長(55歳)の学歴詐称問題によって未曾有の混乱に直面しています。この騒動の影響は、単なる政治問題に留まらず、地元の子供たちの間で「嘘をつく」という意味の「タクボる」という言葉が流行するなど、市民生活のあらゆる側面に深く波及しています。市長が辞任の意向を撤回し続けたことで、市の機能、経済活動、そして市民の信頼が大きく揺らいでおり、その余波は今後も広がると見られています。
学歴詐称問題で揺れる伊東市の田久保眞紀市長(55歳)
市民生活への波紋:「タクボる」流行と職員の落胆
田久保市長の学歴詐称問題は、伊東市民の日常に具体的な影響を及ぼしています。特に顕著なのは、地元の小学生の間で「タクボる」という言葉が流行している点です。これは「嘘をつく」という意味で使われ、「お前、タクボったな〜」といった形で用いられるとのこと。市長の頑なな態度が子供たちの規範意識に悪影響を与えていると、多くの伊東市民が懸念を示しています。
市職員の間でも、市長の動向に対する落胆が広がっています。7月末に「辞めるのやめた」と宣言した田久保市長は、9月1日の市議会で不信任案が可決された場合、市議会の解散か辞職の二択を迫られることになりますが、市議会解散を選択すると見られています。その後の市議選を経て、新たな議会で不信任案が再可決されれば失職となりますが、それも早くても12月以降になる見込みです。ある市職員は、8月22日に田久保氏が冬用の作業服を自宅に持ち帰ったことを挙げ、「冬まで居座る気だぞ」と、市長が長期的な在任を視野に入れている可能性に絶望感を抱いていると話します。
観光とふるさと納税に深刻な打撃
学歴詐称問題に端を発する伊東市の混乱は、経済面にも深刻な打撃を与えています。8月20日には、商工会議所、観光協会、伊東観光協会連合会といった市内経済を代表する3団体が、田久保市長に対し早急な辞職を求める要望書を提出しました。観光協会会長の稲葉明久氏は、「このままでは伊東から観光客の足が遠のいてしまう」と危機感を表明。実際、市長を巡る騒動が原因で、20名規模の団体旅行がキャンセルされたという報告も挙がっています。
経済的影響は、伊東市にとって重要な財源である「ふるさと納税」にも及んでいます。昨年度約6億5000万円を集めたふるさと納税に関して、伊東市企画課には「去年まで寄付していたが、今年はやめる」といった厳しい声が電話やメールで多数寄せられている状況です。このような状況の中、田久保市長は8月16日に自身のSNSで「今回の騒動の全容がやっと見えてきました。事実関係に基づいてその目的を明らかにしてきます」と投稿し、さらなる物議を醸しました。
市長がSNSで示唆する「陰謀論」の展開
田久保市長の学歴詐称問題を追及する百条委員会の委員である四宮和彦市議のもとに、「公開質問状」が届いたのは、市長のSNS投稿から2日後のことでした。差出人のY氏は伊東市在住の男性で、元々は東京都内の大手企業でWebマーケティングなどに従事し、2020年に伊東市へ移住。2023年の市議選では、田久保氏とネット上で合同演説会を行うなど共闘しましたが、自身は落選しています。Y氏は自身のホームページで公開質問状の提出を告知しました。
質問状の内容は、8月13日の百条委員会における四宮市議の発言に関するものです。田久保市長は市長選で新図書館建設計画の中止を公約に掲げ当選しましたが、質問状では四宮氏が「入札は中止したが、その計画は残っている」「次の市長で考えるしかない」と発言したとされ、これを「重大な問題」だと指摘しています。関係者の解説によると、田久保市長周辺では、この百条委員会後に四宮氏が「田久保を下ろして新図書館建設を進めよう」と働きかけ、自民党の委員らがそれに同調したという噂が囁かれているといいます。つまり、一連の騒動は新図書館建設賛成派によって仕組まれたものだという「陰謀論」を主張している形です。実際、田久保市長自身も一部メディアに対し、「一連の騒動は、私が就任後に入札を停止した新図書館建設を復活させるために起きていた疑いが濃くなりました」と語っています。
四宮市議の反論と未解明な真実
しかし、糾弾された四宮市議は、Y氏の主張に強く反論しています。四宮氏によると、「計画は残っている」という発言は、百条委員会中の休憩時間における非公式な雑談の中でのものであったと説明しています。Y氏は傍聴席におり、周囲には「発言を録音した」と話しているとされますが、百条委員会では録音は禁止されています。また、「田久保を下ろして新図書館建設を進めよう」というやり取りについては、事実無根であると断言しています。
Y氏に質問状について問い合わせたところ、彼は「(公開質問状における四宮氏の発言は)私としては休憩中という認識はなく、百条委の進行中になされたものと認識しております。(録音の有無は)私は各委員会および百条委の傍聴時には毎回、ノートに大量の議事録メモを取っております」と回答しました。
結論
伊東市を揺るがす田久保眞紀市長の学歴詐称問題は、市民生活、経済、そして政治的信頼に深刻な影響を与え続けています。子供たちの間で「タクボる」という言葉が生まれ、ふるさと納税の寄付が減少するなど、その波紋は計り知れません。市長の辞任拒否とそれに続く「陰謀論」の主張は、事態をさらに複雑化させ、市民の混乱と不信感を深めています。百条委員会での発言を巡る対立も解決の兆しを見せず、湯煙の立ち込める伊東の街の明るい未来は、いまだ見通せない状況が続いています。
参考文献
週刊文春 2025年9月4日号