横浜市で8月20日から22日まで開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD9)は、日本とアフリカ諸国の関係深化における新たな章を開きました。1993年に細川護熙政権下で東京にて初開催されて以来、3年ごとに日本とアフリカで交互に開催されてきたこの会議は、今回で9回目を迎え、その歴史的意義と現在の地政学的課題が浮き彫りになりました。ベルリンの壁崩壊やソ連解体によって東西冷戦が終結し、自由主義経済が世界に広がる中、欧米各国がアフリカへの援助に消極的だった時代に、日本が先駆けてTICADを立ち上げ、今日までアフリカ開発へのコミットメントを示してきました。
TICADの歴史的意義と日本の貢献
TICADは、アフリカ自身の開発イニシアティブを支援し、国際社会との連携を促進するための重要なプラットフォームとして機能してきました。日本は、アフリカの持続可能な成長、平和と安定、そして人間の安全保障の確保を目指し、長年にわたり多岐にわたる支援を提供しています。今回のTICAD9でも、石破総理をはじめとする日本政府首脳陣と、ジンバブエ、エリトリア、エスワティニを含む約50カ国のアフリカ諸国の大統領など首脳級が横浜に集結し、未来に向けた議論を交わしました。過去には、TICAD開催中に本国でクーデターが発生し、大統領が飛行中に引き返したり、罷免されるといった政情不安を示す出来事もありましたが、今回は幸いにも大きな問題なく会議が進行しました。
TICAD9横浜で共同記者会見を行う石破総理とアンゴラ大統領
「Japan Fair」に見る経済交流と中国の影響力
TICAD9の本会議がインターコンチネンタル横浜で開催される傍ら、隣接するパシフィコ横浜では、JETROなどが主催する経済展示イベント「Japan Fair」が盛大に開催されました。100社を超える日本の企業が出展し、食品、自動車、製造業、インフラ関連など多種多様な分野でアフリカ市場への参入や連携を模索。また、アフリカ側からも41カ国が出展し、各国の伝統産業、菓子、コーヒー、アクセサリーなどを紹介・販売し、活発な交流が見られました。
しかし、この経済交流の場で、日本の出展企業からは共通の懸念が聞かれました。「中国が急速に存在感を増しており、日本企業との間で進んでいた契約が反故にされるケースが多く発生している」という声が相次いだのです。中国は2000年にTICADを模倣して中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)を設立し、3年ごとに中国とアフリカで交互に開催しています。FOCACを通じて、中国はアフリカ各国に巨額の投資を行い、インフラ開発を積極的に進めており、特に南アフリカ共和国では中国との取引が最大のシェアを占めるまでになっています。ある出展者は、「中国は日本企業のアフリカ進出を承知の上で、当該国の高官に賄賂を渡し、中国企業が有利になるよう様々な工作をしてくる。真面目に事業を行っている我々は苦境に立たされている」と語りました。
TICAD9 Japan Fair会場で交流する各国の要人と日本企業代表
中国のアフリカ浸透戦略と「債務の罠」
一方で、同じ出展者からは、「中国の横暴さや、製品、道路などのインフラ整備の粗悪さには現地の人々から不満が高い。とにかく時間をかけずに一気に造り上げるため、すぐにボロが出る。日本の技術や人々はとにかく素晴らしいと言ってくれるし、日本人はアフリカ人に仕事を任せてくれるのが嬉しいと。今後も地道に取引を続けるしかない」という希望の声も聞かれました。
習近平国家主席が提唱する「一帯一路」構想の終着点の一つとしてアフリカが位置づけられる中、中国の急速なアフリカへの接近は「中国型の新植民地主義」とも指摘されています。その一例として、中国が某国に高金利の債務を負わせ、返済不能に陥ると、資源の独占的確保や港湾地域などの要衝の接収といった影響が生じています。これはアフリカに限らず、スリランカが中国の投資で建設した港が地理的な不便さから船舶利用が伸び悩み、最終的に99年間中国に港の運営権を引き渡した事例は、この「債務の罠」の典型として広く知られています。
中国の軍事プレゼンス拡大と国際社会の警戒
アフリカにおける中国企業の進出は多岐にわたり、意外な分野では無線通信機器を扱う中国企業も存在感を放っています。この背景には、ジブチなどの海賊対策があり、中国人民解放軍は2017年からジブチ保障基地を設置しています。これは人民解放軍初の海外基地であり、約2000名の人員が勤務しているとされています。
さらに、タンザニアやモザンビークなど、人民解放軍との共同訓練を行うアフリカ諸国が増加しており、欧米諸国はこれに対し強い警戒感を抱いています。また、表向きは中国の民間警備会社とされる組織がアフリカ諸国の軍に対して軍事指導を行っているとの情報もあり、戦闘機をはじめ、銃器類から無線機に至るまで、様々な中国製の軍需品がアフリカ市場で大きな影響力を持つようになっています。
日本の信頼性と持続可能な協力の可能性
このような状況下で、日本はアフリカとの関係において、質の高いインフラ整備、人材育成、そして持続可能な開発へのコミットメントを通じて、長期的な信頼関係を築くことに注力すべきです。中国の短期的な利益追求や強引な手法に対し、日本の「質の高い成長」と「人間の安全保障」を重視するアプローチは、アフリカ諸国にとってより持続可能で、真の発展をもたらすものとして評価され得るでしょう。TICAD9は、単なる経済協力の場に留まらず、アフリカの未来を巡る国際競争が激化する中で、日本の外交戦略とその価値を改めて示す重要な機会となりました。アフリカとの対等で互恵的な関係を深化させることが、日本の国際社会におけるプレゼンス向上と安定に不可欠です。
参考文献:
- FRIDAYデジタル: 「TICAD9終了後の共同記者会見を行う石破総理(右)と共同議長を務めたジョアン・ロウレンソアンゴラ大統領(左)」, Yahoo!ニュース, 2025年9月7日. https://news.yahoo.co.jp/articles/642a7b80faee5f36495a5723e12d6af9e51ef833