今年4月、神戸山口組との「抗争終結」を宣言し、新たな若頭に就任した竹内照明若頭(65)体制の下、矢継ぎ早に改革人事を進める六代目山口組が、今月8日、中核組織である弘道会で四代目会長人事を断行した。これは、野内正博若頭が新会長に就任するという、組織の将来を大きく左右する動きであり、その背景には六代目山口組の深い戦略が見え隠れする。
弘道会の新体制と組長の思惑
愛知県名古屋市に本部を構える弘道会は、六代目山口組の司忍組長(83)が創設し、名誉職の相談役に就任した髙山清司前若頭(78)、そして現在の竹内若頭を輩出した由緒ある組織だ。名実ともに六代目山口組の中核団体であり、そのトップの交代は組織全体に大きな影響を与える。新会長の座に就いたのは、同会ナンバー2であった野内正博若頭だ。
六代目山口組の司忍組長(中央)と幹部ら。弘道会人事を巡る組織の狙いが見え隠れする
ヤクザ業界に詳しいジャーナリストは、この人事を巡る司組長率いる六代目山口組の狙いを指摘する。「弘道会は六代目山口組・司組長が創設した由緒ある組織であり、その二代目会長を務めたのが、六代目体制の絶対的な指揮官として山口組を率いてきた髙山相談役です。名誉職と言いながらも髙山相談役の影響力は依然として大きい。若頭の座を竹内会長に譲りましたが、今回の人事でさらにその先を見据えて野内若頭を弘道会の会長にしたとみる向きが多いのです。司組長は『終身組長』で先行きは不透明ですが、竹内若頭の七代目就任は現実味を帯びてきている。そうなった場合、ナンバー2の若頭は弘道会会長から出したいという意思表示とみられています」。これは、弘道会が六代目山口組の今後を担う人材を育成・配置する戦略的な動きであることを示唆している。
「武闘派」として知られる野内新会長の横顔
新会長に就任した野内若頭について、六代目山口組の内部関係者は「六代目山口組の中でも『武闘派』として知られており、分裂抗争の中で功績をあげ弘道会の若頭に昇格しています。若頭就任は、当時の六代目山口組髙山若頭の辞令といわれています」と語る。
また、野内新会長は昨年秋、国民健康保険適用外の「指詰め」を過失と申告し、不正に国民健康保険の適用を受けたとして岐阜県警に詐欺容疑で逮捕され、結局不起訴になった経緯がある。これは、警察当局も彼を六代目山口組の中心人物として徹底的にマークしていることの表れであり、その存在感が業界内でいかに大きいかを物語っている。
異例の時期に断行された人事の背景
通常、六代目山口組が夏季休暇に入る8月は、会合がほとんど行われない。しかし、今年は8月10日に臨時の執行部会を開いて最高幹部の新人事を行い、それに続いて今回の大型人事が発表された。この異例の時期に人事刷新が断行された背景には、六代目山口組の強い意志が存在する。
六代目山口組の内情に詳しい関係者は、「新人事は通常、秋口から12月の『事始め』前までに決定されることが多いです。それでも臨時執行部会を開いたのは、分裂抗争から丸10年を迎える8月27日の前に、竹内若頭体制の組織運営を確立するという六代目山口組の強い意思によるものでしょう。執行部を外れた髙山相談役がわざわざ出席したことからも、その決意のほどが分かります」と明かす。
分裂時に執行部だったのは、現在の執行部では竹内若頭と森尾卯太男舎弟頭の2人のみ。本部長や6人いる若頭補佐は、その全員が抗争の渦中に執行部入りしたメンバーであり、組織の若返りと竹内若頭を中心とした組織改革が着実に進行していることが伺える。
抗争の火種と弘道会支配への懸念
今回の弘道会会長人事は、司組長―髙山前若頭―竹内若頭と続く「弘道会の系譜」を野内新会長へと繋ぐための布石である。しかし、一方で「分裂抗争」の緊張感が完全に消えたわけではない。組織力の衰退が著しいとはいえ、神戸山口組とそこから離脱した池田組、絆會ともに解散届は出しておらず、その動向は依然として注視されている。
実際、8月21日には兵庫県公安委員会が、岡山市に本拠を置く池田組と神戸市に本部を構える六代目山口組について、「特定抗争指定暴力団」の指定を12月7日まで延長すると発表しており、当局も未だ警戒を怠っていない。
前出のジャーナリストは、「そもそも、分裂抗争の原因は、六代目体制になって以降、それまで別団体から出ていた組長・若頭というナンバー1・2を、弘道会が独占していた組織運営への不満といわれています。弘道会支配が強まることが明らかになった今、今後の内部の動向により関心が高まっていくことは間違いありません」と警鐘を鳴らす。
六代目山口組は今後、さらなる改革人事を実行するのか。その一挙手一投足に、かつてないほどの注目が集まっている。