衆参両院の首相指名選挙を経て、第104代首相に選出された高市早苗氏の新内閣が発足しました。これに伴い、自由民主党と日本維新の会による「閣外協力」が成立し、今後の政権運営に関心が集まっています。長年にわたり安定した基盤を築いてきた自公連立と比較し、この新たな協力関係はどのような展開を迎えるのでしょうか。日本維新の会に関する著作も持つノンフィクションライターの石戸諭氏は、「非常に不安定な政権になる可能性が高い」と指摘します。維新は公明党のような強固な組織票を持たず、流動的な支持層に支えられているため、形式的な連立ではない閣外協力では、わずかな判断ミスが政権の不安定化を招きかねないとの見解を示しています。
第104代首相に選出された高市早苗氏が、日本維新の会の吉村洋文代表と国会内で握手する様子。自民党と維新の閣外協力発足を示す象徴的な場面。
「強力すぎた」自公連立の基盤:創価学会の組織票の真価
長年日本の政治を支えてきた自公連立は、世界的に見ても稀に見る強力な政治協力体制でした。その最大の要因とされてきたのが、公明党の支持母体である創価学会の組織票です。「信者が指示通りに投票するロボットのような存在」という単純なイメージを持たれがちですが、実際の選挙現場では、その実態ははるかに複雑かつ実務的なものです。
熟練した選挙スタッフによる精緻な票読み
創価学会の選挙スタッフは、国政選挙において与党陣営に協力し、票の掘り起こしと卓越した票読みで大きな力を発揮してきました。熟練したスタッフほど、小選挙区単位に留まらず、学区ごとの具体的な想定票数まで把握し、最終的な与党候補や野党候補の獲得票数を予測することが可能です。これは、個々の学会員がどれほどの知人・友人に働きかけ、投票を依頼できるかを細かく把握することで実現されています。現場での取材を通して、こうした選挙参謀的な役割や、友人・知人に電話をかけて支援を広げるという地道な実務が、組織票を支える本質であることが明らかになります。全国津々浦々にこうした実務を担う存在がいたことが、自公連立の揺るぎない強みとなっていました。
公明党が享受した連携の恩恵と維新との本質的相違点
自公連立において、安定的な組織票の恩恵を受けていたのは自民党だけではありません。公明党もまた、選挙区調整によって獲得した小選挙区で自民党支持層からの支持を固めることで当選を果たし、重要な大臣ポストを得て国政や地方レベルでの政策実現を容易にしてきました。応援した候補者の当選や政策実現は、支援者のモチベーション維持にも直結しており、こうした実務的な側面が失われることの意味は、今後の選挙戦で徐々に明らかになるでしょう。
政治学的な「連立」と「閣外協力」の明確な違い
一方、今回の自民党と日本維新の会の関係は、政治学的な意味での「連立政権」とは異なります。ノーステキサス大学の前田耕教授がSNSで簡潔に指摘したように、内閣の閣議決定に署名する大臣を出す「連立」と、それがない「閣外協力」は根本的に異なるものです。この点を最も明確に指摘しているのが、政治メディアではなく、元大阪市長で維新に今も影響力を持つとされる松井一郎氏であることは興味深い事実です。松井氏は繰り返し「今回はまだ閣外協力だ」と各所で語っており、これは極めて正しい認識と言えます。連立と呼ぶか閣外協力と呼ぶかは、単なる言葉の問題ではなく、政権運営の安定性や責任の所在に直結する重要な相違点なのです。
結論:不確実性に満ちた日本政治の新たなステージ
自民党と日本維新の会による閣外協力は、日本の政治に新たな、そして不確実性に満ちたステージをもたらしました。石戸諭氏の指摘するように、公明党のような強固な組織票を持たない維新との協力は、従来の自公連立と比較して政権運営の不安定化要因を多く含んでいます。閣僚を輩出しない「閣外協力」という形式は、松井一郎氏や前田耕教授の指摘の通り、政権への責任の持ち方や意思決定プロセスにおいて、真の「連立」とは一線を画します。日本の政治が「変わらない」という冷笑的な見方は過去のものとなりつつありますが、その変化がもたらす不安定な要素をいかに管理し、国民の期待に応えていくのか、高市内閣の今後の政権運営が注視されます。





