国内最大手、三菱UFJ銀行で発生した前代未聞の巨額窃盗事件。顧客の貸金庫から金塊など計約3億9,000万円相当の金品を盗んだとして窃盗の罪に問われた元行員、山崎由香理被告人(47)に対し、東京地裁(小野裕信裁判官)は先日、実刑判決を言い渡しました。この事件は、銀行の信頼を揺るがすだけでなく、一人の人間が破滅へと転落していく悲劇的な軌跡を浮き彫りにしています。
都内にある三菱UFJ銀行の支店外観。元行員による貸金庫窃盗事件は、銀行の信頼性にも影を落とす。
被告人質問で明かされた巨額窃盗の全貌と「闇の姿」
今年8月25日に東京地裁で行われた被告人質問で、山崎被告人は自らの口で事件の詳細を語り始めました。今年4月の初公判で「全部認めさせていただきます」と述べて以来、事件について具体的に話すのはこの時が初めてでした。
判決によれば、被告人は2023年3月から翌24年10月の期間にわたり、東京都練馬区の練馬支店と世田谷区の玉川支店において、顧客が預けていた金塊29個(時価総額約3億3,000万円相当)、現金約6,100万円、旅行券50枚(計25万円分)を窃盗しました。
勾留中の被告人は、職員に付き添われ黒色のジャケット姿で法廷に現れました。傍聴人を一瞥することなく、終始うつむき加減で開廷を待つその姿は、長い勾留生活による疲弊がうかがえるものでした。白髪が目立ち、何度も深く呼吸する様子は、彼女の心の動揺を物語っていました。この日の裁判では、被告人質問に先立ち、弁護側の証人として元夫と母親が出廷。彼らの証言から、被告人が深刻なギャンブル依存症に陥っていたという「闇の姿」が明らかになったのです。
エリート銀行員からの転落:ギャンブルが招いた破滅の道
山崎被告人は、短大を卒業後、就職氷河期真っ只中の1999年に三菱UFJ銀行に入行しました。その後のキャリアは順調で、営業課長を務めるなど、エリート行員としての道を歩んでいました。
しかし、その人生に転機が訪れたのは十数年前。当時同居していた元夫がFXで利益を上げている姿を見て、彼女も次第にFXに興味を持つようになりました。当初はFXのみでしたが、その後は競馬やスロットといった他のギャンブルにも手を広げていきました。被告人自身が法廷で語ったところによると、「FXは休日には閉まっていましたが、当時の精神状態では何かしていないと非常に不安だったため、休日でも開催している競馬をやるようになりました」とのことです。
その結果、2013年には1,200万円もの借金を抱え、裁判所に個人再生手続きの申立てを行うまでに至りました。個人再生は自己破産に準じる手続きですが、職業制限がないため、彼女は行員としての勤務を続けることができました。その後、元夫が口座を管理し、小遣い制を導入するなど徹底的な管理を行った結果、約3年で借金を完済し、600万円の貯蓄を作るまでに回復しました。
しかし、元夫の努力もむなしく、被告人は再び隠れてFXやギャンブルを再開してしまいます。当初3万円だった小遣いが月15万円に増えても、彼女の金銭感覚では全く足りなかったといいます。「一度はFXや競馬をやめましたが、少しでも小遣い稼ぎのためにと手を出してしまいました」と後悔の念を述べました。FXや競馬による損失は増え続け、そんな状況の中で彼女が目をつけたのが、自身の職場である銀行の「貸金庫」だったのです。
顧客の信頼を裏切った貸金庫窃盗の動機
最終的に、山崎被告人は自らのギャンブル依存症による金銭的困窮から、顧客の財産が預けられた貸金庫に手を出すという、銀行員としての倫理と顧客からの信頼を根本から裏切る行為に至りました。この事件は、一個人の深い闇を露呈すると同時に、金融機関が直面する内部統制の課題と、ギャンブル依存症が社会に与える影響の深刻さを改めて浮き彫りにしています。
参考文献
- お客様100名ほどから17億~18億円分を盗んだ」 前代未聞の国内最大手「三菱UFJ銀行」で起きた巨額窃盗事件。 – 日刊SPA! (Yahoo!ニュース)





