安倍元首相銃撃事件公判:山上徹也被告の母親が証言、旧統一教会への信仰と家族への影響

安倍晋三元首相銃撃事件の公判が奈良地方裁判所で進行中だ。11月13日に行われた第7回公判では、弁護側の立証が開始され、殺人や銃刀法違反などで起訴されている山上徹也被告(45)の母親が出廷し証言を行った。山上被告が犯行動機の一つとして挙げている「旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)への信仰」について、母親は自身が教団にのめり込んでいった詳細な経緯を語った。この公判を傍聴したジャーナリスト・作家の鈴木エイト氏がその模様をレポートする。

山上徹也被告の母親、公判で謝罪と信仰の経緯を語る

13日から始まった弁護側の証人尋問には、山上徹也被告の母親が出廷することから、33席の一般傍聴席を求め341人もの傍聴希望者が抽選場に集まった。山上被告は逮捕後の取り調べで、母親が旧統一教会に多額の借金をして破産したことに触れ、「教団とつながりがあると思った安倍氏を狙った」と供述している。そのため、母親の信仰状況の「真実」は、傍聴人の大きな関心事だった。

遮蔽板が設置され、傍聴席から母親の姿を確認することはできなかった。証人尋問の冒頭で、母親は涙を交えながら息子の犯行について謝罪の言葉を述べた。「本来は事件が起きたときにすぐにでも謝罪すべきでしたが、なかなかできませんでした。それで公的に、今ここで謝罪したいと思います。ここにもしかしたら安倍前首相が来ているかもしれない。次男徹也が大変な事件を起こし心よりお詫び申し上げます。安倍前首相と昭恵夫人、遺族に心よりお詫びしたいです。安倍首相を応援していた人も多く、国民の方々にお詫び申し上げます。本当に申し訳ございませんでした」と語った。旧統一教会の教えでは、人間は死後「霊人体」として霊界に行くとされており、「安倍前首相が来ているかもしれない」という母親の言葉は、この教えに基づいている可能性が指摘された。

山上徹也被告が送検のため奈良西署を出る様子山上徹也被告が送検のため奈良西署を出る様子

旧統一教会への高額献金と家庭崩壊の実態

入信から数か月後には、自死した夫の保険金から合計5000万円を教団に献金した母親は、その後も高額な壺や絵画を購入し続けた。山上被告が高校生の頃には、亡くなった夫の供養という名目でさらに1000万円を献金。子どもたちの進学時期には、亡くなった祖父から継いだばかりの会社事務所や自宅家屋などを売却し、全資産の4000万円を献金していた事実が示された。

母親はこれらの献金を教団のせいとはせず、自己責任だと答弁を続けた。その結果、傍聴席には母親が事件後も信仰を続けていることが強く伝わった。母親は「住んでいる家を売るときはためらいがありましたが、長男が『死にたい』と言い出して、献金しないといけないと思いました」と証言。弁護人からの「子どもたちの将来がなくなってしまうとは思わなかったのか」という問いに対し、「なんというか、とにかくそれよりも献金するほうが大事だと思いました」と答えた。さらに、自身も夫も大学を出ているにもかかわらず、「私自身は大学に行ったがそこまで価値があるとは思わなかった。夫も亡くなりましたし、大学よりも生きる意味を考えて、元気に明るくなってほしいと思っていました」と語った。子どもたちの将来を閉ざし、一家の生活が破綻するほどの高額献金を何の疑問もなく行ってきた経緯と実態が、母親自身の言葉によって明らかにされた。

裁判所と被告人の反応:深まる事件の背景理解

母親の証言は、裁判員や裁判官が旧統一教会の持つ構造的な問題に対する理解を深める一助となったと見られる。被告人席の山上徹也からは母親の姿が見えており、彼の表情からは、時折眉間にしわを寄せ、感情を抑えようとしている様子がうかがえた。この証言は、山上被告の犯行動機の根幹にある家庭環境と旧統一教会との関係性を、より具体的に浮き彫りにしたと言えるだろう。

結び

山上徹也被告の母親による証言は、安倍晋三元首相銃撃事件の公判において、被告人の犯行動機とされる旧統一教会への信仰と、それが一家にもたらした深刻な影響を詳細に明らかにした。母親の献金が家族の生活を破綻させ、子どもたちの将来を閉ざした経緯は、事件の背景にある構造的な問題を浮き彫りにし、裁判における理解を深める重要な要素となるだろう。公判は今後も続き、事件の全容解明に向けたさらなる審理が進められる見込みだ。

参考文献