誰もが一度は悪夢を見たことがあるだろう。しかし、それが20年にもわたり年間数回も繰り返されるとしたらどうだろうか。現在52歳になる筆者は、大学4年生の7月上旬に関する悪夢に長年苦しめられてきたという。この特異な体験は、X(旧Twitter)や知人との会話で多くの共感を呼び、「私も同じ夢を見ます!」という声が多数寄せられている。実は、多くの人が経験する「大学を卒業できない」という内容の悪夢には、特に就職氷河期を経験した世代に共通する深い心理的背景が隠されているのかもしれない。
単位不足の焦燥と就職活動の重圧:悪夢が始まった背景
筆者が繰り返し見る悪夢は、大学4年生の夏学期、7月上旬に設定されている。就職活動の激しさからか、筆者はなぜか講義に全く出席しておらず、内定を得た後に慌てて単位取得に奔走するというものだ。1997年6月に内定を獲得した筆者にとって、その就職活動は17社中唯一の合格であり、まさに「就職氷河期」という厳しい時代を象徴する経験だった。この過酷な経験は、「もう二度とこんな思いはしたくない」と強く記憶に刻まれたという。
繰り返される悪夢、多くの人が経験
夢の中で、筆者は7月の期末試験までに何とか講義に出席すれば「C判定」で単位が取れると踏むものの、最大の壁にぶつかる。自分がどの講義を、いつ、どの時限に履修しているのかが全く分からないのだ。「経済概論II」「競争戦略論」「組織論」「会計学II」「イギリス文学」といった科目の名前は浮かぶものの、具体的な時間割が思い出せない。
キャンパスを彷徨う絶望感:夢が映し出す現実の重圧
キャンパスをさまよい、受講すべき講義を探し回る筆者だが、見つかるはずもない。学生の相談に乗る「学生係」に助けを求めるも、彼らも個人の履修状況までは把握していない。当時はITによるデータ管理が進んでいなかったため、確認手段も限られていたのだろう。
刻々と時間は過ぎ、1限の9時30分が終わり、2限の講義もまた見つけられない。夢の中の筆者は、無限にキャンパス内を彷徨いながら、自らを責め続ける。「なぜ手帳やカレンダーに講義を書いておかなかったのか!」「このまま卒業できなかったら内定取り消しになり、あの地獄のような就職活動をまた繰り返すのか……」。学費を工面してくれた両親への申し訳なさ、「無能な息子でごめんなさい!」という絶望的な心の叫びが、夢の中の筆者を苛む。
就職氷河期を乗り越え広告会社に入社した筆者
この20年間、筆者を苦しめてきた悪夢は、単なる個人的な夢物語ではない。多くの人々が共有する「大学を卒業できない夢」は、就職氷河期という社会的な重圧の中で経験した深い不安やストレスが、潜在意識に強く残り続けている証拠だろう。学業と就職活動の狭間で抱えた焦燥感、そして将来への不確実性が生み出したこの悪夢は、過去の困難を乗り越えた今でも、心の奥底で私たちに語りかけ続けているのかもしれない。





