高市早苗首相の「台湾有事」発言、中国の反発と専門家の見解を徹底解説

高市早苗首相(64)による台湾有事に関する国会答弁が、国際社会、特に中国との間で波紋を広げています。中国政府は発言の撤回を求め、強い反発を示している一方で、日本の野党や一部大手メディアも首相の発言を「踏み越えた」ものとして批判の声を上げています。しかし、安全保障に詳しい識者たちからは、異なる見解が示されており、この論争の深層を理解することが求められています。

「存立危機事態」を巡る与野党とメディアの議論

今月8日付の朝日新聞は、「『存立危機』踏み越えた首相」「歴代首相は在職中の明言避ける」と大きく報じ、現役首相が中国を相手に集団的自衛権行使の可能性に踏み込んだことについて、日中関係への影響を懸念する姿勢を示しました。発端は、7日の衆院予算委員会で立憲民主党の岡田克也元外相が中国による台湾有事への対応を質問した際、高市首相が「武力攻撃が発生したら、(日本にとって)存立危機事態にあたる可能性が高い」と答弁したことです。

この答弁に対し、立憲民主党をはじめとする野党や朝日新聞などの主要メディアは、「踏み越えた発言だ」と強く批判。週明け10日の予算委員会でも、立憲の大串博志議員は首相答弁が「日本が戦争に進むかどうかの大きな論点」だと指摘し、高市首相に発言の取り消しを求めました。

中国からの激しい反応と異例の「殺害予告」

立憲や朝日新聞の“予言”通り、中国側は高市首相の発言に猛烈に反発しています。中国政府外交部はSNSを通じて、「日本が台湾海峡情勢に武力介入すれば中国は必ず正面から痛撃を加える」と非難し、発言の撤回を要求しました。

さらに看過できないのは、中国の薛剣・駐大阪総領事が発した前代未聞の暴言です。高市首相の国会答弁の翌日、薛総領事はSNSで朝日新聞の速報記事を引用し、「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟が出来ているのか」と投稿しました。これは外交官としては異例の、極めて脅迫的な発言であり、国際的な批判を集めています。

国会で台湾有事に関する答弁を行う高市早苗首相国会で台湾有事に関する答弁を行う高市早苗首相

専門家が語る「失言ではない」理由

しかし、高市首相の発言は本当に外交問題に発展し、撤回を求められるほどの“失言”だったのでしょうか。安倍・菅両政権で国家安全保障局長を務めた北村滋氏は、「基本的には従来の政府見解から外れていませんし、法的解釈として間違っていない以上、高市総理も発言撤回はしないでしょう。仮にそうしたら、おかしな話になってしまいます」と語り、首相の発言が政府の既存の法的・安保上の立場に沿ったものであることを強調します。

外務省で外務事務次官や駐米大使を歴任した杉山晋輔氏も同様に、「存立危機事態の答弁については、高市総理は誰もが考えていた当たり前のことを普通に言っただけ。問題だと憤る指摘がありますが、全く理解できません」と述べ、首相の発言はごく自然なものであり、批判は理解し難いとの見解を示しています。

杉山氏によると、「存立危機事態」とは国際法上の集団的自衛権を行使する条件の一つであり、日本が直接攻撃を受けていなくても、密接な関係にある他国への攻撃が日本の存立を脅かし、国民の生命や自由が根底から覆される明白な危険がある場合に、集団的自衛権を行使できるという概念です。これは2015年に安倍政権下で成立した安保法制によって、国内法に初めて盛り込まれました。

杉山氏は、これまでの政府が「事態を総合的かつ客観的に判断する」といった曖昧な“木鼻答弁”に終始していたのに対し、高市首相が首相として初めて台湾有事を具体例として挙げて説明したことを評価しています。「役人が書いた答弁は何を言っているのかよく分からないでしょう。それに対し高市さんは具体例を挙げながら、当たり前のことを言ったに過ぎません」と杉山氏は述べ、日本の最西端である与那国島の目と鼻の先に位置する台湾で有事が発生すれば、それが日本にとって「他人事ではない」と考えるのが普通ではないかと指摘しました。

結論

高市首相の台湾有事に関する答弁は、中国からの激しい反発と国内での議論を巻き起こしましたが、安全保障の専門家たちはその内容が既存の法的解釈と政府見解に沿ったものであり、むしろ国民に対して分かりやすく説明しようとした試みであると見ています。この一連の出来事は、日本の安全保障政策と日中関係の複雑さを改めて浮き彫りにしています。


参考文献:
Yahoo!ニュース