2024年5月、北朝鮮は国威発揚を図るべく新型駆逐艦の盛大な進水式を実施したが、金正恩朝鮮労働党総書記の目前で船体が横転するという前代未聞の大失態を演じた。この事故は、北朝鮮の軍事技術力だけでなく、その実態が「ハリボテ」ではないかという疑惑を国際社会に突きつける結果となった。世界が注目する中でのこの失敗は、北朝鮮の尊厳を大きく傷つける出来事として報じられている。
金正恩氏が叱責した「犯罪的な」失敗の詳細
問題の進水式は2024年5月21日、北朝鮮北東部の港湾都市である清津の造船所で行われた。全長約140メートル、排水量5000トン級とされる新型駆逐艦「姜健(カン・ゴン)」の進水式には、最高指導者である金正恩総書記が直々に臨席し、その様子は北朝鮮メディアでも大々的に報じられる予定だった。しかし、船体を岸壁から海へ滑り出させる際に致命的な問題が発生した。米ワシントン・ポスト紙によると、船尾側が先に水面に突入し、船首がドックに残ったままバランスを崩した船体は、そのまま右舷を下にして水面に横倒しになった。この痛ましい光景を目の当たりにした金正恩総書記は激怒し、米ロサンゼルス・タイムズ紙などが報じたところでは、事故は「絶対的な不注意、無責任、および非科学的な経験主義」によるものだと厳しく叱責した。さらに、重大な事故であるだけでなく「犯罪行為」であると断じ、関係者の処罰を示唆した。朝鮮中央通信は後日、金正恩氏の発言として、この事故が「わが国の尊厳と自尊心を一瞬にして崩壊させた」と伝えている。
北朝鮮の金正恩総書記、軍艦進水式失敗に関連し激怒か
前時代的な復旧作業と専門家の見解
世界中に恥をさらした北朝鮮は、面目を保つため必死の復旧作業を開始した。転覆から約2週間後、船体は人力と原始的な手法によって直立した状態に戻されたが、その方法は先進国の常識とはかけ離れたものだった。通常、このような大型艦船の復旧には、巨大なクレーンを搭載したバージ船などが用いられるが、ニューヨーク・タイムズ紙によると、北朝鮮の作業員たちは数百人がかりでケーブルを引っ張り、さらに大型の風船(浮力体)を多数使用した。米シンクタンク「38ノース」が公開した5月29日の衛星画像には、岸壁に並んだ数百人の作業員が駆逐艦に繋がれたケーブルを引いている様子が捉えられており、元アメリカ海軍大尉のジェームズ・ファネル氏は米ラジオ・フリー・アジアに対し、作業員たちが処罰を恐れ必死に作業にあたったとの見解を示している。また、衛星写真では、横倒しになった船体の周囲に長さ約5メートルほどの紡錘形のバルーンが少なくとも24個配置されているのが確認できる。
進水式で横転し、復旧作業中の北朝鮮の新型駆逐艦
さらに、今回の事故を受けて、この新型駆逐艦そのものが実用に適さない「ハリボテ」である可能性が浮上している。イギリスの軍事専門家は米紙の取材に対し、船体にエンジンが搭載されていない「複数の証拠」があると指摘した。進水式での横転事故、そしてその後の前時代的な復旧作業は、北朝鮮が対外的に誇示する軍事力の見せかけの側面を露呈した可能性がある。
まとめ:事故が露呈した北朝鮮の弱点
北朝鮮の新型軍艦進水式での横転事故は、単なる技術的な失敗を超え、最高指導者の権威失墜、そして国家の軍事技術力に対する国際社会の疑念を深める結果となった。数百人の人力と風船を使った復旧作業は、北朝鮮が現代的なインフラや技術に欠ける現実を浮き彫りにし、さらには専門家から指摘された「ハリボテ」疑惑は、北朝鮮がプロパガンダのために見かけ倒しの兵器を製造している可能性を示唆している。この事故は、北朝鮮が直面する技術的、経済的な困難、そして体制の脆さの一端をさらけ出した出来事と言えるだろう。
参考文献:
- ワシントン・ポスト紙 (The Washington Post)
- ロサンゼルス・タイムズ紙 (Los Angeles Times)
- ニューヨーク・タイムズ紙 (The New York Times)
- 38ノース (38 North)
- ラジオ・フリー・アジア (Radio Free Asia)