あまりに陰惨な過去に、さらにその過去が何十年も隠されてきたことに衝撃を受ける。かつて満州に渡った女性たちが受けた性暴力。この事実を無かったことにはさせまいと、長年沈黙を強いられてきた被害女性らが声をあげ始めた。
【画像】「ソ連兵に助けを求めるため、15人の未婚女性が差し出され…」隠された“不都合な歴史”を語り直す、被害女性たちの姿
戦時中、岐阜県から満州に渡った黒川開拓団は、敗戦時に関東軍から見捨てられ、過酷な状況から身を守るため満州に侵攻していたソ連軍に助けを求めた。だがソ連軍は見返りに兵士の「性の相手」を求め、15人の未婚女性が差し出される。「性接待」の名の下で性暴力を受けた女性たちは帰国後も偏見の目に晒され、口を噤むことを余儀なくされた。この事実を記録したのがドキュメンタリー映画『黒川の女たち』。松原文枝監督が取材を始めたのは、被害女性たちが自ら口を開き始めたことに感銘を受けたからだ。
映画は、戦時下において行われた性暴力の事実を明らかにするとともに、日本が満州で行った侵略行為、そして戦後に女性たちの声を押さえつけてきた男性社会の問題をも鋭く指摘する。この力強く心を打つ映画がどのように作られ、公開が実現したのか、松原文枝監督に話をうかがった。
親の世代の負の歴史を引き受け記録として残そうと決めた人々がいた
――最初はテレビ用のドキュメンタリー作品として企画され、その後新たに撮影を行い、映画として完成したのがこの『黒川の女たち』とのことですが、どのような経緯で映画の製作が始まったのでしょうか?
松原 2018年8月、『朝日新聞』に、黒川開拓団の一員だった佐藤ハルエさんが市民会館で自身の満州での体験を話し、自らが犠牲となった「性接待」について話をしたという記事が掲載されたんです。それを読み大きな衝撃を受けました。当時ハルエさんは93歳、そのお年の女性が、公の場で自分が受けた性暴力の事実を明かしたことに驚いたんです。ご高齢の方だと、ここまで隠し通したのだから墓場まで持って行こうと思う人もいるはず。でも新聞に載った彼女の顔は堂々として強い信念を感じさせるものだった。思わずじっと見入ってしまい、自分もこの人に話を聞いてみたいと思いました。