昨年の衆院選不出馬により国会議員の職を辞した自民党元幹事長の二階俊博氏が、参院選の行方や「ブラックボックス」と批判された約50億円の政策活動費といった国民の関心事について、率直な意見を述べた。今回のインタビューは、二階氏と40年来の親交がある政治解説者の篠原文也氏が聞き手を務め、その深い洞察が日本の政治動向を読み解く上で貴重な示唆を与えている。
小泉政権下で郵政民営化特別委員長を務める二階俊博氏と石破茂氏の姿。長年の政治経験を示す一枚。
参院選後の政局と消費税減税論
日本の政治状況は常に流動的であり、参院選の結果は今後の連立政権のあり方にも大きな影響を与える。現行の自公連立体制の安定性に対し、二階氏は「これで完璧だ」とは言えず、国民民主党や立憲民主党を加えた大連立の可能性も排除しない姿勢を示唆している。しかし、それは選挙結果次第であり、安易な結論は避けるべきだと強調した。
引退後も日本の政治に影響力を持つ二階俊博元幹事長。参院選や物価高対策に関する本音を語る様子。
与野党間で議論の的となっているのが、物価高対策としての消費税減税だ。野党が減税を強く訴える一方で、自民党と公明党は公約に現金給付を盛り込み、財源確保の重要性を強調している。二階氏は消費税減税を「一時の風」と表現し、導入までの苦労と財源確保の困難さを指摘。「財源を示せない者が、安易に消費税減税を語るべきではありません」と述べ、政治の責任ある態度を求めている。この発言は、短期的な人気取り政策に警鐘を鳴らすものであり、長期的な国家財政の視点に立った、ベテラン政治家としての見識を強く感じさせる。
物議を醸す「政策活動費」と政治家の責任
自民党が直面する課題について、二階氏は党内の多様な意見を積極的に吸い上げる重要性を説く。近年の政治が官邸や党本部の会議に終始しがちな現状では、「国民の心が躍るような政策は出てこない」と危機感を示した。これは、現場の声を軽視する政治運営への警鐘であり、党運営の改善を促すものと解釈できる。
二階氏自身の引退のきっかけとなったのは、二階派(志帥会)の政治資金パーティーを巡る政治資金不記載問題である。秘書が略式起訴され、二階氏の不記載額が約3500万円と報じられた。この問題について二階氏は、会計は事務方に任せていたとしつつも、「監督者として政治的責任はある」と認め、自ら「けじめ」をつけたことを強調した。意図的な不記載ではなかったと弁明しつつも、責任の所在を明確にする姿勢は、政治家の倫理観と自律性を問うものとなっている。
特に注目されたのが、使途公開義務がなく「ブラックボックス」と批判された政党からの「政策活動費」の問題だ。昨年、その廃止が決定されたが、二階氏が幹事長時代の5年2カ月間で約50億円を受け取ったと報じられた件について、彼は「あの報道は誤解を招くものですよ」と反論。その約48億円の支出のほとんどが、衆院選、参院選、地方選挙といった選挙活動に使われ、個人の懐には「ビタ一文、入っていない」と明言した。幹事長が公認候補者一人に1億5000万円もの選挙資金を支出するケースもあったが、これは時の総理大臣への相談を経つつも、伝統的に幹事長の裁量で認められてきたと説明。ただし、これらの資金は「個人ではなく公の金」であり、常に「説明がつくようにしなければならない」という政治資金の透明性に対する責任論も示している。
まとめ
二階俊博氏のインタビューは、日本の政治が直面する喫緊の課題に対し、長年の経験に裏打ちされた率直な見解を提示した。消費税減税の是非、連立政権のあり方、そして政策活動費を巡る議論など、彼の言葉は現在の政治の病巣を突き、今後の政治の方向性を示唆している。特に、物価高対策としての消費税減税には安易な判断を戒め、財源確保の重要性を強調した点は、持続可能な国家運営を考える上で重要な視点を提供する。また、政治資金問題に対して政治的責任を果たす姿勢は、国民の政治に対する信頼回復に貢献するものであり、今後の政界の動向を注視する必要がある。
参考文献
- 二階俊博「 消費減税は心地よい一時の風 」(月刊文藝春秋ウェブメディア「文藝春秋PLUS」、及び「文藝春秋」2025年8月号)