2025年参院選の沖縄選挙区は、平和を巡る歴史認識問題が選挙戦の大きな争点として浮上している。特に、現職の石破茂首相(68)が「戦争なんて絶対にやってはいかん。全ての国民が1年に1度はあそこに行くべきだ」と声を震わせながら語り、沖縄戦の犠牲者を慰霊する「ひめゆりの塔」(糸満市)に言及した発言は、その象徴となっている。6月23日の「慰霊の日」には、自民党の現職首相として29年ぶりにひめゆりの塔を訪問し、平和への強いメッセージを発信した。
石破茂首相が那覇市での集会で演説する様子。参院選2025沖縄の情勢を反映。
首相と候補者の平和訴求:問題発言の背景
石破首相の演説に先立ち、参院選沖縄選挙区に挑む自民党の奥間亮氏(38)も、「沖縄の自民党はほかの自民党とは違う。県民感情をしっかりと伝えていく」と決意を表明した。首相と候補者が揃って平和への思いを強調した背景には、自民党議員による問題発言が大きな反自民感情を巻き起こしたことがある。これは、5月に那覇市での会合で自民党参院議員の西田昌司氏(66)から飛び出したものだ。
西田議員の「歴史の書き換え」発言と反発
西田議員は、ひめゆりの塔の展示内容に関して、「日本軍が入ってきて学徒隊が死に、米国が入ってきて解放されたという文脈で書いている。歴史の書き換えだ」と主張した。しかし、このような記述は確認されておらず、ひめゆり平和祈念資料館長の普天間朝佳氏からは「体験者の思いを踏みにじるものだ」との強い批判が噴出した。この発言は県内外で大きな波紋を呼び、県議会では自民党を含む与野党の賛成多数で抗議決議が可決される事態となった。自民党県連内でも、西田議員の辞職を求める意見が出るほどの衝撃を与えた。石破首相もこの発言に対し、「ひどい発言だ」と憤りを示し、自らがひめゆりの塔を訪問する必要があると判断したという。
ひめゆりの塔慰霊碑と沖縄戦の記憶。平和への思いを象徴する場所。
追い込まれる自民候補と野党の攻勢
この問題発言は、自民党候補の奥間氏を厳しい立場に追い込んだ。奥間氏は離島振興や米軍基地の跡地利用促進を掲げるものの、有権者から基本的な政治姿勢を問われかねない状況に直面している。一方、野党系の高良沙哉氏(46)は、この問題を格好の攻撃材料として利用している。高良氏は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の辺野古移設反対を旗印に、保守と革新勢力が結集した「オール沖縄」を支持基盤としている。選挙対策本部長を務めるのは、オール沖縄のリーダー格である玉城デニー知事(65)だ。玉城知事は、オール沖縄結成を主導し、2018年に在任中に亡くなった翁長雄志氏の後を継ぎ、現在2期目を務めている。
結論
今回の参院選沖縄選挙区では、西田議員の問題発言をきっかけに、平和教育や歴史認識、そして基地問題といった沖縄の根深い課題が再び選挙戦の焦点となっている。各候補者がこれらの問題にどう向き合い、有権者にどのようなメッセージを届けるかが、選挙の行方を大きく左右することになるだろう。