フードデリバリー大手「出前館」において、就労資格のない外国人が日本人名義の配達員アカウントを不正利用して配達を行っていた大規模な詐欺事件が発覚しました。ウズベキスタン人約1000人、ベトナム人約300人を含む計6カ国、約1400人もの外国人が関与していたとされ、その規模は驚くべきものです。警視庁国際犯罪対策課は今年5月に初の立件を行い、7月23日には男女7人を詐欺容疑で逮捕。不正に関与した外国人の数は、当初の150人から1400人へと急増しました。
闇の仕組み:山崎容疑者の役割と名義貸しの手口
一連の事件の首謀者とされるのは、コンサルタント会社代表の山崎光太郎容疑者(51)です。山崎容疑者は自ら指示役となり、日本側と外国側それぞれに2人ずつの仲介役を配置する巧妙な手口でこのビジネスを組織していました。日本側の仲介役は、LINEのオープンチャットなどを利用して「出前館案件」といった形で日本人による名義貸しを募集。一方、ウズベキスタン人やベトナム人の仲介役は、SNSを通じて実際に配達を行う就労資格のない外国人を募っていました。
金銭の流れも明確に構築されていました。山崎容疑者は、名義貸しを希望する日本人と、実際に配達を行う外国人との「マッチング」を成立させるごとに、1名義につき2万円の仲介料を得ていたとされます。出前館から日本人名義人に振り込まれた配達料からは、まず名義を貸した日本人が月額2万円を受け取り、仲介役には1人あたり月額5000円が支払われます。残りの金額が、実際に配達を行った外国人に支払われる仕組みでした。この手口により、山崎容疑者は2022年以降の3年間で約5400万円もの不当な利益を荒稼ぎしていたとみられています。
不正発覚の経緯と杜撰なシステム
この大規模な名義貸しビジネスが露見したのは、予期せぬ形でした。警視庁担当記者によると、山崎容疑者がこのビジネスを考案したきっかけは、元々ウーバーイーツの配達員だった彼が、コロナ禍の2022年に出前館配達員のウズベキスタン人と知り合ったことに始まります。そのウズベキスタン人が「自分のアカウントで働けなくなった。別の名義が欲しい」と山崎容疑者に依頼し、山崎容疑者が自身のアカウントを月2万円で貸したことが、大規模な名義貸しビジネスの着想につながったとされています。
しかし、2023年9月、仲介役とは別のウズベキスタン人配達員が、ペダル付き電動バイクで配達中に人身事故を起こしたことで事態は一変します。この事故の捜査の過程で、日本人名義による不正登録が明らかになり、立件へと至りました。捜査幹部によると、事故発覚後も山崎容疑者らの荒稼ぎは約1年半以上も続いていたといいます。これは、身元が不明な不法就労の外国人があまりに多く、その特定に時間がかかったためとされています。当時の出前館のシステムも、この不正を助長した要因でした。メールアドレス登録後、オンライン上で本人確認書類を提出し、研修動画を視聴するだけで、すぐに配達員として活動可能であり、登録者本人が実際に配達しているかを確認する顔認証システムなども導入されていませんでした。
また、捜査幹部は、不正がウーバーイーツではなく出前館に集中した理由として、ウーバーイーツの配達員が個人事業主として業務委託契約を結ぶため、確定申告などが煩雑で税務署の目が行き届きやすいのに対し、当時の出前館が「バイト雇用」であった点を挙げています。
不正の広がりと今後の課題
今回の事件は、ギグエコノミーにおける本人確認の脆弱性と、それに伴う不法就労の温床となる可能性を浮き彫りにしました。約1400人もの外国人が不正に関与していたという事実は、日本の社会において、デジタルプラットフォームを通じた労働形態の拡大と同時に、外国人労働者の管理、特に就労資格の厳格な確認が喫緊の課題であることを示しています。このような事件を未然に防ぎ、健全な労働環境を維持するためには、プラットフォーム事業者の本人確認システムの強化と、関係省庁による連携強化が不可欠と言えるでしょう。
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