各地でクマ被害が連日報じられ、社会の注目を集める中、今年はクマを上回る命を奪っている動物由来の脅威が存在します。それが、ダニが媒介する感染症である「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」です。今年は全国で過去最多となる165人が感染し、すでに13人が命を落としています。初期症状は風邪に似ており、その見過ごされがちな危険性について、医療ジャーナリストの木原洋美氏が警鐘を鳴らしています。
マダニ媒介感染症SFTSの潜在的リスクを表現したイメージ画像。肌の露出に注意。
激化する「獣害」:クマの犠牲者を上回るSFTSの脅威
メディアでは連日、全国各地でのクマ被害の状況が報じられています。環境省のまとめによると、9月末までの人身被害者数は108人に上り、10月3日時点で死亡者数は計7人となり、2023年度の過去最悪だった6人を上回りました(10月30日時点の死者数は12人、クマが原因と疑われる死者数は1人)。近年、「クマ」「イノシシ」「サル」「シカ」「アライグマ」「ハクビシン」「キツネ」「タヌキ」「カラス」「ネズミ」といった野生動物による「獣害」は年々深刻化しており、農作物の食害、森林破壊による災害、噛みつきや飛び出しによる死傷者の発生、住宅侵入による生活への支障などが問題となっています。
しかし、これらの一般的な「獣害」以上に深刻な被害をもたらすのが、「動物由来感染症(人獣共通感染症)」です。これは、動物から人間へ、あるいは人間から動物へ病原体が伝播しうる感染症の総称です。病原体を媒介する生物は多岐にわたり、ダニ、蚊、ノミ、ハエ、魚類、さらには犬や猫といったペット、家畜、野生動物まで、私たちの身近な生物すべてが関与しうると言っても過言ではありません。世界中で最も多くの人間を殺している生物は「蚊」であり、毎年数十万人の命を奪っていますが、近年日本で特に増加しているのが、「マダニ」が媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)による被害なのです。
マダニが媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)の現状
今年のSFTS感染者数はすでに165人(10月7日時点)で過去最多を記録し、死亡者数は8月時点で13人に達しています。これはクマによる死亡者数を上回る数字です。SFTSは、主に原因となるウイルスを保有するマダニに噛まれることで、人間と動物の両方に感染する人獣共通感染症です。感染経路は、マダニからの直接の吸血だけでなく、SFTSウイルスに感染した犬や猫などの動物に噛まれたり、体液に接触したりすることでも感染する可能性があります。
SFTSの初期症状は、発熱、全身倦怠感、食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛といった消化器症状などで、風邪に非常に似ています。しかし、重症化すると血液中の血小板が著しく減少し、出血が止まらなくなったり、意識障害を引き起こしたりして、死に至ることもあります。一部メディアでは「致死率は27%ほど」と報じられ、その高い危険性に注目が集まっています。日本において、ダニが媒介する感染症はSFTSの他にも、「ツツガムシ病」や「ダニ媒介脳炎」「日本紅斑熱」などがあり、これらの感染症リスクを考慮すると、マダニこそが日本における「最恐生物」と言えるかもしれません。
SFTSの感染が過去最多を更新し、多くの尊い命が奪われている現状は、私たちに野生動物との共存における新たなリスクを強く認識させています。一般的な獣害への対策に加え、マダニを介した感染症への理解と適切な予防策が、今後ますます重要となるでしょう。
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