2025年、北海道では「緊急銃猟」が導入されるなど、日本はもはや野生のヒグマとの“共生”という幻想を許されない局面を迎えている。海の向こう、サハリンでは人間を“食料として貯蔵”する狂暴なヒグマが現れ、狂犬病感染の可能性まで指摘される中で、「かわいそう」という感情が新たな犠牲を生む危険性が高まっている。生と死の境界線が曖昧になりつつある今、日本は現実に基づいたヒグマ対策を早急に進める必要がある。
知床羅臼岳での悲劇：人慣れしたヒグマの脅威
2025年の北海道は、静かな恐怖に覆われていた。知床半島の羅臼岳では、登山中の男性がヒグマに襲われて命を落とす痛ましい事故が発生。登山口に位置する山小屋の管理人である四井弘氏は、この事故に対し、やり場のない憤りを語っている。事故の数日前から、四井氏は異常に人を恐れないヒグマの出没を警告し続けており、事故当日の朝も登山客に注意喚起を行ったものの、全ての人には伝えきれなかったという。
NHKの取材（9月14日）に対し、四井氏は「被害にあった男性に危ないクマがいると伝えられていれば。そう思うと悲しいし悔しい」と、現場で命の危険と向き合う人間の切実な叫びを伝えた。さらに四井氏は、近年の登山客の無責任な行動にも言及している。「クマの近くに寝転んで写真を撮っている人を見た。クマは人間は怖くないと学習したのではないか」。自然への畏敬の念を忘れ、野生動物をまるでペットのように扱う軽薄な態度は、ヒグマという捕食者の本能を静かに、しかし確実に歪めていったのかもしれない。犠牲となった男性の両親に入山記録を手渡した四井氏は、今も登山口に花を供え、静かに祈りを捧げている。現場で誠実に行動する人々の存在は、この厳しい現実におけるささやかな希望である。
2025年6月、ロシア・サハリン州でヒグマによる人身被害現場を捜査する警察官や関係者。緊迫した状況と対策の必要性を示す。
都市部への拡大：日常を脅かすヒグマの現実
悲劇は羅臼岳だけに留まらない。福島町では新聞配達員がヒグマに襲われ死亡し、札幌市では市街地への出没が相次いだ結果、北海道で初めて自治体の判断による「緊急銃猟」での駆除が実施された。もはやヒグマの問題は、山奥の出来事ではなく、我々の日常を脅かす差し迫った危機へと変貌している。
事態の深刻さを鑑み、北海道は道警、環境省に加え、市長会、町村会、さらには陸上自衛隊北部方面隊までが参加する新たな「ヒグマ対策推進会議」を設置した。これは、従来の枠組みでは問題への対応が限界に達したことを、行政自らが認めたに等しい。砂川市では、市街地への出没件数が過去最悪を記録し、箱ワナで実に15頭ものヒグマが捕獲されたが、出没は一向に収まる気配がない。通学路にヒグマが現れることで小学校では外遊びが自粛され、遠足が中止になるなど、市民生活は深刻な影響を受けている。現場で対応にあたる猟友会や市職員は、心身ともに疲弊しきっている状況だ。
危機的状況の認識と現実的な対策の必要性
かつては「森の住人」として距離を保ってきたヒグマが、今や人里に頻繁に出没し、時には命を奪う事態が多発している。これは、人間活動の拡大、野生動物の生息環境の変化、そして一部の人々の野生動物に対する誤った認識が複合的に絡み合った結果と言える。
「共生」という理想は重要だが、生命の危機が差し迫る状況においては、現実的な「対策」に重点を置く時期に来ている。緊急銃猟や捕獲数の増加は、その危機感の表れだ。今後、行政、専門家、そして地域住民が一体となり、ヒグマの行動パターン解析、生息地の管理、啓発活動の強化、そして必要に応じた適切な個体数調整など、多角的なアプローチを迅速に実行していくことが求められる。感情論に流されることなく、科学的根拠に基づいた対策を推進し、人々の安全を守ることが最優先されるべき課題である。
参考文献:
- 集英社オンライン (2025年11月5日). 「北海道が「緊急銃猟」まで導入した2025年、日本はもはや“共生”の幻想を許されない。海の向こう、サハリンでは人間を“食料として貯蔵”した狂暴なヒグマが現れた。狂犬病感染の可能性も指摘される中、「かわいそう」という感情が新たな犠牲を生む。生と死の境界が崩れ始めた今、日本は現実的なヒグマ対策を急がねばならない。」 Yahoo!ニュース.
https://news.yahoo.co.jp/articles/bc1aac39c0be8faecd8d6ae4ed9c008c01cb40bd
