先般、衆議院予算委員会で高市早苗首相が台湾有事における「存立危機事態」について踏み込んだ発言をしたことが、政界内外で大きな波紋を呼んでいます。特に、機密性の高い安全保障上の想定が公開の場で議論されたことに対し、国会での審議のあり方や、そのルール作りの喫緊性が改めて浮き彫りになりました。
高市首相発言の経緯と「存立危機事態」の重み
今回の議論は、11月7日の衆議院予算委員会において、立憲民主党の岡田克也氏が高市首相に対し、1年前の総裁選での「中国による台湾の海上封鎖が発生した場合、『存立危機事態になるかもしれない』」との発言について真意を問いただしたことに端を発します。当初、高市首相は「すべての情報を総合的に判断しなければならない」と慎重な答弁に終始しました。しかし、岡田氏が台湾とフィリピン間のバシー海峡封鎖といった具体的な状況を想定し、日本の対応をさらに問うたところ、高市首相は「戦艦を使って武力の行使を伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になり得る」とまで踏み込んだ答弁をしてしまったのです。
この「存立危機事態」とは、日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態を指し、安倍晋三政権下で集団的自衛権の一部行使を可能にする概念として導入されました。その認定には極めて重い意味があり、特定のケースを公の場で言及することの重さは計り知れません。
高市早苗首相の予算委員会での発言
公開審議の場での議論の適切性
筆者を含む多くの人々が、このやり取りを報じるニュースに接した際、「一般に公開されている予算委員会の場で議論する内容なのか」という強い疑問を抱きました。質問者である岡田氏は外務大臣の経験者でもあり、また「存立危機事態」という概念の持つ政治的・軍事的な重みを深く理解しているはずです。特定の状況下での認定例、つまりは「機密情報」を公にすることのデメリットは、重々承知していると考えるのが自然でしょう。
もちろん、具体的な想定に言及する形で誘導されるように答弁してしまった高市首相にも問題があったことは否めません。事実、高市首相自身も10日の同委員会で「反省点として、特定のケースを想定して明言することは、今後、慎もうと思っている」と述べています。首相としては、質問が通告された時点で関係する外務省や防衛省と十分に協議し、従来通り集団的自衛権の一部行使の具体例については明示せず、戦略的曖昧さを貫く姿勢を示すべきでした。この点においても、厳しく反省が求められます。
国会における「秘密会」活用の議論
今回の事態は、日本の安全保障に関する極めて重要な問題について、国会での議論のあり方を根本から見直す必要性を示唆しています。機密性の高い情報を含む安全保障関連の議論は、公開の場で行うことでかえって国益を損なう可能性も孕んでいます。例えば、具体的な敵対行動の想定やそれに対する日本の対応能力などを公然と議論することは、他国に日本の防衛上の弱点や戦略を晒すことにもなりかねません。
このような背景から、国会における「秘密会」の運用を含め、機密性の高い情報を扱う議論や審議の改善、そしてそのためのルールづくりを急ぐ必要があります。透明性と国民への説明責任は重要ですが、国家の安全保障に関わる事柄においては、戦略的な配慮と機密保持が不可欠です。国益を最大限に守るためにも、どのような状況で秘密会を活用すべきか、その基準や手続きについて、早急に与野党間で合意形成を図ることが求められます。
結論
高市首相の「存立危機事態」に関する発言は、単なる失言として片付けるべきではありません。これは、日本の安全保障に関するデリケートな問題を国会がどのように扱うべきか、という根源的な問いを私たちに投げかけています。国民の生命と国の安全を守るためには、公開の場での議論と機密保持のバランスをいかに取るかが極めて重要です。今後の国会において、より実りある議論が行われるよう、具体的な運用改善への取り組みが期待されます。





