大切な会話の質を高める「聴く」とは「観る」こと…五感で相手を理解するコミュニケーション術

大切な相手との会話の質を高めるには、単に言葉を聞き取るだけでは不十分です。多くの人が、相手の話を「聴いているつもり」になっていても、実は自分自身の思考や反応に囚われてしまい、本当に相手が伝えたいことや抱えている感情を見落としています。真に聴き上手な人は、耳だけでなく五感をフル活用して、相手の声のトーン、話し方、体の動き、そして表情といった非言語的な情報からも多くのメッセージを受け取っています。

なぜ人の話を「聴けていない」と感じるのか

人が誰かの悩みや困難な状況を聞くとき、「相手の役に立ちたい」「問題を解決してあげたい」という気持ちが自然と湧き上がります。特に大切な相手であれば、力になりたい、良いところを見せたいという思いが強まります。しかし、この善意がかえって、相手の話を「聴く」妨げになることがあります。相手が話している間、頭の中ではすでに「どんな言葉を返そうか」「どうアドバイスしようか」と考えが巡り、その思考に意識が集中してしまい、目の前の相手の言葉や様子を十分に捉えきれていない状況が生まれるのです。

自分の「ピンとくる点」に反応してしまう落とし穴

さらに、人は相手の話の中から「自分が一番ピンとくるところ」「自分の経験や知識と結びつく部分」に無意識に反応する傾向があります。その部分だけを切り取って理解したつもりになり、相手を完全に理解したと錯覚してしまうのです。これが、会話の中で「ピント外れな」やり取りが生まれる大きな原因となります。

例えば、以下のような会話は、よくある「聴けていない」例と言えるでしょう。

男性「今日、外回りの営業でたまたま先輩と一緒になって。そうしたらずっと愚痴ばっかり聞かされて」
女性「ふーん」
男性「最近自分の成績が上がらないのは、上司が評価してくれないからだって。まったく、まいったよ」
女性「そんなの、聞いてあげることないじゃない」
男性「いや、一応相手は先輩だし。なんて言ったらいいかわかんなくて……」
女性「そうやって優しいから、相手につけ込まれるのよ。そんな面倒くさい人と一緒になったら今度から、“僕は違う営業先がありますので”ってはっきり言わないと。この間だって……」
男性「(女性の話をさえぎって)もういいよ。まるで俺が悪いみたいじゃん」

この例では、男性は単に「大変だった」「疲れた」という共感やねぎらいの言葉を求めて話しています。彼は解決策を求めているのではなく、自分の気持ちを理解してもらいたいだけなのです。一方、女性は親切心から具体的なアドバイスをしようとしますが、それが男性が本当に聴いてほしいと思っていることと完全に食い違ってしまいました。女性は「先輩からの愚痴を聞かされた」という事実から「つけ込まれている」「はっきり断るべきだ」という自分の経験や価値観に結びつく点に反応し、そこからアドバイスに繋げたため、男性の「共感してほしい」という根本的なニーズに応えられなかったのです。

本当の「聴く」とは何か? 五感を使った傾聴の力

では、どうすれば本当に相手の話を「聴く」ことができるのでしょうか。それは、「聞く」という音声情報を得る行為を超えて、「観る」という視覚やその他の感覚も含めた全身で相手を理解しようとする行為に近いです。

相手の言葉だけでなく表情や仕草も注意深く聴く(観る)様子のイメージ相手の言葉だけでなく表情や仕草も注意深く聴く(観る)様子のイメージ

真の傾聴とは、相手の言葉の表面的な意味だけでなく、その裏にある感情や意図を汲み取ることです。そのためには、言葉を聞きながら、相手の表情、声のトーン、話すスピード、体の姿勢、手の動きなど、非言語的なサインに意識を向けます。これらの情報は、言葉だけでは伝えきれない相手の状況や感情を雄弁に物語っています。五感を使ってこれらの情報を受け取ることで、相手が本当に伝えたいこと、求めているものが何なのかをより深く理解できるようになります。アドバイスを考える前に、まずは相手の世界を五感を通して感じ取り、共感的に理解しようと努めることが、会話の質を根本から高める鍵となります。

まとめ

大切な人との会話の質を高めるためには、自分の思考やアドバイス欲求を一旦脇に置き、五感をフル活用して相手の言葉と非言語サインの両方から情報を丁寧に受け取ることが重要です。表面的な「聞く」から一歩進み、「観る」という姿勢で相手に寄り添うことで、誤解を防ぎ、真に相手を理解する深いコミュニケーションを築くことができるでしょう。これは、人間関係全般において非常に有効なスキルと言えます。

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