「どうかこの場所に、もう一度戻らせてくれませんか」──。2024年6月27日夕方、東京都目黒区の自由が丘駅前に、かつて「参院の質問王」と呼ばれた蓮舫氏(57)が約1年ぶりに姿を現した。同年の東京都知事選で約128万票を得ながら、現職の小池百合子氏(72)と石丸伸二氏(42)に次ぐ3位に終わった蓮舫氏。都知事選敗北直後は「国政に戻る気はない」「渡り鳥になってしまう」と語っていたにも関わらず、再び国政への意欲を示し、7月3日公示の参議院選挙に立憲民主党の比例代表として挑戦する。
街頭演説に立つ蓮舫氏。有権者に支持を訴える表情
蓮舫氏は自由が丘での街頭演説で、かつての発言に触れつつ、自身の心境の変化を率直に語った。「当時は虚無でした。質問されても、答えが自分の中に見つからなかった。『一旦ピリオド』と言ったのも、いま思えば、その場しのぎだったと思います」。過去には「二重国籍」問題や「Rシール」など、その強さが注目される一方で物議を醸すこともあったが、この1年で“しなやかさ”を学んだと自己分析する。鋭さはそのままに、しかし以前より柔らかな雰囲気。「闘う語り部」とでも言うべき新たな一面を見せた。
街頭演説で明かした市民への思い
この日の蓮舫氏は、白いハイネックのブラウスに軽やかな白いジャケット、黒のスラックスという装い。短く刈り上げた髪に小ぶりのピアスというスタイルで、以前の鋭利なイメージとは異なる“静かな闘志”を漂わせていた。駅前で足を止めた通行人やカフェの利用者を前に、「こんにちは、蓮舫です。1年ぶりの街頭演説です」と穏やかに語り始めた。
「教育支援、育児支援、若者支援、非正規から正規への転換──できなかったことばかり。申し訳ない気持ちでいっぱいでした」。この1年、多くの有権者との対話を通じて「生活が苦しい、将来が不安だ」という声に政治が応えられていないと痛感したという。さらに、石破茂総理(68)が言及した“高額療養費の自己負担引き上げ”の方針については、「命を削るような政治。私は、絶対に見過ごせません」と強い言葉で批判した。
演説中に発生した「乱入者トラブル」
蓮舫氏の熱のこもった演説が続く中、会場に一瞬、緊張が走った。人混みの奥から中年男性の怒声が飛んだのだ。「違法だろ!」「許可取ってないじゃないか!」──。男性は蓮舫氏の支援者ともみ合いになり、現場は騒然となった。警察官が出動し、男性は一時的に交番へ連行されたが、数十分後には現場に戻り、再び怒号を浴びせ続けた。
現場にいたFRIDAYデジタル記者が男性に話を聞くと、「この自由が丘でも渋谷でもそうだが、立憲民主党は道路使用の許可を取らずにやってる。俺は交番で確認した。案の定、許可は下りてなかった」と主張。自身は立憲民主党の支持者だとした上で、「こういうルールを平気で破る連中が、よく市民の代表面できるなと思うんだよ」と、政治に対する不信と怒りを露わにした。さらに話は、自民党の裏金問題、政治資金パーティー、そして蓮舫氏側の白シャツの支援者による「威圧行為」にまで及んだ。この男性の怒号を「ただのクレーマー」と片付けるには、あまりにも多くの市民が足を止め、事態を注視していた。この一幕は、蓮舫氏が戦う相手は与党だけではないことを象徴していたと言えるだろう。
「中高年女性の共感」狙う“ニュー蓮舫”
今回の参院選に向けて、立憲民主党は「ニュー蓮舫」を打ち出している。野田佳彦代表(68)は、蓮舫氏が都知事選で25ヵ所の応援に入り、都議選での5議席増に貢献した実績を評価。「彼女の力を全国区の党勢拡大に活かしたい」と期待を寄せた。党内では蓮舫氏の復帰について様々な意見が飛び交っているという。
政治ジャーナリストの安積明子氏は、今回の街頭演説での蓮舫氏の変化に注目する。「絶叫したり眉間にしわを寄せることもなく、マスコミ対応にもニコニコしていた。内容も学生時代の友人や親の介護の話など、年齢相応の女性の苦労話をしていたのが印象的でした」。安積氏は、尖ったイメージではなく、中高年の女性からの共感を得ようとする蓮舫氏の姿があったと分析。これに対し、好感を持つ層がいる一方で、「イメージがブレている」と感じる層もいると指摘する。
それでも、都知事選で128万票を獲得した蓮舫氏の「集客力」は党内で高く評価されている。安積氏は「知名度・発信力は魅力的で、復帰自体に反対する声は少ない。参院選では、少なくとも30万票は取るとみている。党が擁立する労働組合の組織内候補は世間からすれば知らない名前ばかりなので、蓮舫さんの名前があったほうがいい」と述べ、党勢拡大への貢献に期待が集まっている現状を語った。
蓮舫氏自身も、街頭演説の終盤で「幽霊議員って言われました。でも、この1年、私は誰よりも有権者に寄り添う気持ちを学んだと思っています。渡り鳥になっても構わない。もう一度、国会で働かせてください」と訴えた。その言葉に小さくうなずく中年女性や、拍手を送る子連れの母親たちの姿も見られ、彼女の言葉は特に女性層を中心に響いているようだった。7月3日公示、20日投開票。令和の「蓮舫劇場」が、いま再び幕を開ける。
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