2024年4月1日に改正障害者差別解消法が施行され、私立学校を含む全ての学校において、障害のある生徒への「合理的配慮」の提供が義務化されました。この法改正を受けて学校現場では様々な対応が進められていますが、中でも繊細な問題となるのが、生徒の「成績評価」に関する合理的配慮の要望です。今回は、発達障害により特定の教科の理解に困難がある生徒の保護者から、成績について合理的配慮を求める要望があった事例を基に、法的な観点からどのように捉えるべきかを解説します。
改正障害者差別解消法と学校の義務
障害者差別解消法は、「不当な差別的取扱いの禁止」(第7条第1項、第8条第1項)と「合理的配慮の提供」(第7条第2項、第8条第2項)の二つを主な柱としています。改正により、これまで努力義務だった事業者(私立学校を含む)における合理的配慮の提供が法的義務となりました。これにより、公立・私立を問わず、全ての学校は障害のある生徒に対し、その障害に応じた必要な変更や調整を行うことが求められています。
成績評価における合理的配慮の事例
具体的な事例として、発達障害を持つ生徒の保護者から、数学の成績について合理的配慮を要望されたケースを考えます。生徒は授業内容の理解に困難を抱えており、保護者はその状況を踏まえ、成績評価に際して特別な配慮を求めているという状況です。学校は、この要望に対してどのように対応すべきでしょうか。法的な観点からは、「不当な差別的取扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」の両面から検討が必要です。
学校における合理的配慮の事例と範囲
法的な観点:「不当な差別的取扱い」について
まず、「不当な差別的取扱いの禁止」について検討します。この規定は、障害を理由として、障害のない者と不当な差別的な取扱いをすることを禁じています。文部科学省の対応指針によれば、「正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否する、または提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付すこと」などがこれに当たるとされています。
成績評価において、もし障害があることだけを理由に低い評価をつけた場合、それは「不当な差別的取扱い」に該当する可能性があります。しかし、今回の事例のように、普段の小テストや中間・期末試験などの客観的な根拠に基づいて成績をつけているのであれば、それは「障害を理由として」いるのではなく、定められた評価基準に基づいていると言えます。この場合、直ちに「不当な差別的取扱い」に当たるとは考えにくいでしょう。
学校としては、まず現在の成績評価が、障害の有無に関わらず定められた基準に基づいているかを再確認することが重要です。そして、発達障害のある生徒の評価についても、その基準に照らして適切であったかを慎重に検討する必要があります。もし、基準の適用方法に問題があったり、障害特性を考慮しないことで不当に低い評価になっていたりする可能性があれば、評価の見直しも視野に入れるべきです。
結論
改正障害者差別解消法により、学校における合理的配慮は義務となりました。成績評価に関する要望があった場合、まずは「不当な差別的取扱いの禁止」に抵触しないかを確認することが第一歩です。障害があることのみを理由とした不当な評価は許されません。学校は、成績基準が適切に適用されているか、障害特性が評価に不当な影響を与えていないかなど、評価のプロセスを改めて検討することが求められます。これにより、全ての生徒にとって公平かつ適切な評価が実現されるよう努める必要があります。
参考文献:
- 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律
- 文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針
- https://news.yahoo.co.jp/articles/9fa0d29a5ed5902835ce4e58693ccdec43ed459b