SNSで称賛されたゼレンスキー大統領の「ジョーク」。8月18日の米ウ首脳会談でトランプ大統領との間で交わされたこのやり取りは、単なるユーモアに留まらず、ウクライナの外交戦略とゼレンスキー氏のメディア対応の巧妙さを如実に示している。特に彼の服装は、戦時下の国家元首としてのメッセージと、国際的な礼節の間で巧みにバランスを取る手段として注目を集めた。
緊迫の2月会談:服装への批判とゼレンスキー大統領の機転
2月末に行われたトランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談は、緊迫した雰囲気の中で決裂したと報じられている。この際、ゼレンスキー大統領はウクライナの国章が刺繍された長袖シャツを着用しており、これに対しトランプ氏から「着飾っている」と揶揄された。さらに、一人の記者からは「なぜスーツを着ないのですか?あなたはウクライナの最高職に就いているのに、スーツの着用を拒否している。スーツをお持ちではないのですか?多くのアメリカ人が、あなたがこの職を尊重していないことを問題に感じている」と直接的な批判が向けられた。これに対し、ゼレンスキー大統領は「戦争が終わったら、その衣装を着るつもりだ。たぶん君たちのようなものかな?もしかしたらもっと良いものになるかもしれない。わからない。見てみよう。もしかしたらもっと安いものになるかもしれない」とジョークで切り返し、その場を収めた。この機転の利いた対応は、当時からSNSで大きな反響を呼んだ。
半年後の再会:スーツ姿で変化した和やかな雰囲気
それから半年近くが経過し、8月18日にホワイトハウスで再び米ウ首脳会談が開催された。この日、ゼレンスキー大統領は黒いスーツ姿で現れ、前回のカジュアルな服装とは一変した姿を見せた。会談の冒頭、記者団からは「まずゼレンスキー大統領、スーツ姿がとても素敵です」と賞賛の声が上がった。これに対しトランプ氏は、前回の会談で批判的な質問をした記者を指し「私も同じことを言った。彼は前回、攻撃してきた記者だ」と述べた。このやり取りを受け、ゼレンスキー大統領は再び機知に富んだ返答をした。「覚えている」「あなたは同じスーツだ。私は装いを変えたが、あなたは同じだ」とトランプ大統領の服装に言及し、前回の緊迫した空気から一転、会談の場は和やかなムードに包まれた。さらに、ゼレンスキー大統領が妻のオレナ夫人からメラニア夫人にあてた手紙を手渡す場面では、「トランプ氏にあてた手紙ではない」と伝え、再び笑いを誘い、その場を和ませた。
ゼレンスキー大統領とトランプ大統領、和やかな雰囲気での米ウ首脳会談の様子
外交における「服装」の戦略的意味:専門家の分析
ゼレンスキー大統領の服装の背後には、単なるファッション以上の深い意図が込められている。彼と20年来の付き合いがあるウクライナ人デザイナー、ビクトル・アニシモフ氏は、今回のスーツについて「戦争でファッションやデザインなど多くのことが後回しになった。一番重要なのは戦争終結だ」と語っている。
ゼレンスキー大統領のスーツを手がけたデザイナー、ビクトル・アニシモフ氏
ノンフィクションライターの石戸諭氏は、『ABEMAヒルズ』でゼレンスキー大統領の服装戦略を詳しく分析した。石戸氏は、「ウクライナ軍との連帯を示すメッセージを外さず、外交の現場で求められる礼節も外していない」と指摘。今回のジャケットスタイルは軍服に近い生地が使われ、襟やボタンの配置といったディテールも軍服に寄せたデザインになっているという。
2月の会談時の服装が完全に軍服に寄せたヘンリーネックのシャツで、外交の場ではカジュアルに見えがちだったのに対し、8月のジャケットスタイルは「ミリタリーとテーラードを丁寧にバランスを取っている」と石戸氏は評価する。この変化は、戦時下のウクライナ軍との連帯と、国際的な外交儀礼への配慮を巧みに両立させるゼレンスキー氏の手腕を示している。
石戸氏はまた、「ファッションや文化は戦争の影響をとても受けやすい。戦争状態では、着るものすべてに意味を持たせられるため注目される。つまりこれだけ注目されるということは今、ウクライナが平和ではないことの裏返しだ」と述べ、ゼレンスキー大統領の服装がウクライナの現状と平和への強い願いを象徴していることを強調した。
結論
ゼレンスキー大統領は、国際舞台において、自身の服装やユーモアを戦略的に用い、ウクライナの厳しい状況と平和への切なる願いを効果的に伝えている。トランプ大統領との会談における服装の変化と機知に富んだ対応は、戦時下の国家元首に求められる強さと外交官としての柔軟性を示す彼の卓越した手腕を鮮やかに浮き彫りにした。こうした振る舞いは、ウクライナが直面する困難な現状を世界に訴え、国際社会からの理解と支援を呼びかける上で重要な役割を果たしている。
参考文献
- ABEMA TIMES編集部
- ニュース番組『ABEMAヒルズ』