浅草を駆ける“二刀流”の挑戦:アナウンサー夢破れた女性車夫・関森ありさの情熱

東京・浅草の街角で、観光客の視線を釘付けにする一人の女性がいる。小柄な体ながら軽快に人力車を引き、観光客に最高の思い出を届ける女性車夫、関森ありささん(29歳)だ。彼女のもう一つの顔は、ラジオDJ。週4日で人力車を、さらに週4日でラジオDJを務め、月に休みはゼロという異色の“二刀流”キャリアを歩んでいる。アナウンサー試験に100社以上落ちたという挫折を乗り越え、なぜ彼女は人力車の世界に飛び込み、多忙な日々の中でも輝き続けることができるのか。その本音に迫る。

アナウンサー夢破れ、人力車の世界へ

学生時代からアナウンサーを夢見ていた関森さんは、卒業を控えて100社以上のテレビ局の面接を受けたものの、全て不採用という厳しい現実を突きつけられた。夢を諦めかけたその時、彼女は「トーク力を磨くために人力車の車夫をやってみたらどうか」という講師のアドバイスを受け、新たな道へ足を踏み入れた。履歴書に書ける経験になれば、という軽い気持ちで始めた人力車だったが、この選択が彼女の運命を大きく変えることになる。

浅草の街を人力車で駆け抜ける関森ありささん浅草の街を人力車で駆け抜ける関森ありささん

異例の「車夫継続」採用条件

人力車の車夫として働き始めた関森さんに、思わぬ転機が訪れる。当時面接を受けていたラジオ局「レインボータウンFM」が、彼女のラジオDJとしての採用条件として「人力車の車夫を続けること」を提示したのだ。副業が一般的ではなかった当時としては異例の条件に、関森さんは戸惑いを覚えたという。しかし、研修で苦労しながらもようやく人力車を引けるようになった喜びと、もう少しこの仕事を続けてみたいという思いが勝り、彼女は異色の二足のわらじを履くことを決意した。

浅草で磨く「おもてなし」の心とトーク術

人力車の車夫としてデビューした後も、お客様になかなか乗ってもらえない日々が続いた。悩んだ末に「天下車屋」の社長に相談したところ、「立ち止まってくださったお客様をトークで楽しませているか?」という指摘を受け、ハッとさせられたという。「乗ってほしい」という一方的な思いだけではだめだと気づき、お客様を楽しませることこそが車夫の真髄だと理解した関森さん。以来、お客様との会話を大切にし、浅草の街を舞台に日々「おもてなし」の心とトーク術を磨き続けている。この経験は、ラジオDJとしてのスキル向上にも大きく貢献している。

浅草で女性車夫として活躍する関森ありささんの笑顔浅草で女性車夫として活躍する関森ありささんの笑顔

月0日休みでも「全く辛くない」その理由

週4日は車夫、週4日はラジオDJという多忙なスケジュールで、月に休みは0日。しかし、関森さんの表情に疲労の色はなく、常に笑顔が溢れている。「本当に、仕事をしているという感覚がないんです」と語る彼女は、現在の仕事を心から楽しんでいる。人力車の仕事では店長として若いスタッフの指導にもあたり、学ぶ楽しさを感じているという。アナウンサーを目指す子や、夢に向かって頑張る若い世代に接することで、自身もエネルギーをもらい、さらなる高みを目指し続けている。

挫折を経験しながらも、自らの可能性を信じて新たな道を開拓した関森ありささん。人力車の車夫とラジオDJという、一見異なる二つの仕事を通じて、彼女は人々に感動と笑顔を届け、自分らしい輝きを放ち続けている。その情熱的な生き方は、私たちに「働くことの本当の喜び」を教えてくれる。