突如、最高裁判所から郵便物が届き、驚いている。そんな人もいるのではないか……。政府は毎年11月、「裁判員候補」として登録された人にその事実を通知するのだが、裁判員裁判で問題となっているのが「遺体の写真」だ。果たしてそれは伏せられるべきなのか。【水谷竹秀/ノンフィクション・ライター】
【写真を見る】傷口などを記録した遺体のイラスト 遺族は「何これ」とあぜん
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テーブルの上に並んだ写真には、ある若い女性の遺体が写っている。死装束をまとい、その周りには色とりどりの花々が飾られている。それらの写真を指さしながら、女性の母親(55)が胸を詰まらせて語った。
「ここを見ていただいたら分かりますが、額から右目にかけて裂傷の痕が残っていますね。口が開いているのは顎(あご)の関節が脱臼したからなんです。歯も抜け落ちていますよね。通常、ご遺体は唇を縫い合わせて口が閉じているんですが、娘は顎が外れたためにそれができなかった」
腕だけを写した写真は全体的に赤黒く染まっており、2カ所、白いテープのようなものが貼られていた。
「法医学者が防御創の可能性があると言った左腕です。テープは表皮がめくれて腐敗したのを隠すためのもの。指先が黒ずんでいるのはミイラ化したからです」
この遺体の女性は、大阪市出身の辻上里菜さん(22)=当時=。2022年3月下旬、同市内のマンションで、交際していた中田正順(まさゆき)受刑者(42)からゴルフクラブやガラス瓶で頭部などを何十発も殴られ、死亡した。中田は事件発生から数日後、警察署に自首し、殺人容疑で逮捕された。その後、殺人罪で起訴され、第一審大阪地裁の裁判員裁判では、殺意の有無が争点となった。検察側は遺体の状況などから強固な殺意があったと主張したが認められず、中田は傷害致死罪で懲役10年の判決を言い渡された。
冒頭で説明した写真は、葬儀社の棺に安置されていた里菜さんの遺体を、母親がスマホで撮影したものだ。その意図をこう説明する。
「私の大事な娘の最後の姿を残したかったのと、やっぱりこの傷のひどさは、裁判での証拠になるかもしれないと思って」





