2025年慶州APEC首脳会議、異例の事態と日韓中関係の舞台裏

2025年10月31日から11月1日にかけ、韓国慶州市でAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議が開催されました。2005年の釜山以来、20年ぶりの韓国開催となったこの会議では、21の国と地域から首脳級が出席し、日本からは高市早苗総理や茂木敏充外相が参加しました。しかし、会議の舞台裏では、各国首脳の動向からメディア対応、開催地の住民生活に至るまで、数々の異例な事態が報告されました。

トランプ大統領の早期退席と習近平主席の「統制された歓迎」

米国からはトランプ大統領が10月29日に韓国入りし、李在明(イ・ジェミョン)大統領との首脳会談を行いました。しかし、APEC晩餐会への出席を除き、会議には参加せず、翌30日には習近平国家主席との会談を済ませた後、早々に米国へと帰国の途に就き、APEC首脳会議にはベッセント財務長官が代理出席する形となりました。このトランプ大統領の動きは、各国メディアの間で注目を集めました。

一方、中国の習近平国家主席はトランプ大統領との会談後、車列で慶州へ移動しました。その際、空軍基地前の歩道には習近平主席を歓迎する多数の中国人らが詰めかけ、異様な雰囲気を呈しました。横断幕や中国国旗、韓国国旗を振る人々でごった返し、通行も困難な状況でした。警備にあたる韓国警察官の中には、中国政府関係者の識別証を下げた人物が混じり、習近平主席や中国に反対的な言動をする人物を監視する場面も見られました。この出迎え集団は統率が取れており、車列通過後には撮影用に歓声を上げた後、瞬く間に姿を消したと報じられています。このような「動員された歓迎」は中国要人の外国訪問時に頻繁に見られる光景であり、今回の慶州でも例外ではありませんでした。

APEC閉幕時、メディアセンターのスクリーンに映し出された高市総理と李大統領の握手APEC閉幕時、メディアセンターのスクリーンに映し出された高市総理と李大統領の握手

開催地住民の不満とメディアセンターの課題

APEC開催中、釜山から慶州への主要ルートでは各国要人の移動に伴う長時間にわたる交通規制が敷かれ、地元住民からは渋滞への不満の声が上がりました。また、慶州市内中心部ではAPEC反対デモやトランプ支持派のデモが活発に行われ、デモ隊の通過による道路規制も加わり、さらなる交通渋滞を引き起こしました。住民らは「うんざりしている」と疲弊した様子を見せていました。

メディアセンターでは、記者会見場が作業ホール内に設けられ、李大統領が各国記者からの質問に熱心に答える姿が見られました。しかし、取材環境は課題が山積していました。あるロシアメディアの記者は「取材したい情報がほとんどなかった」と述べ、フィリピンのフリーランスカメラマンは「空港取材の設定もなく、情報も得られない」と嘆きました。メディアセンターは記者の数に対して明らかに収容能力が不足しており、床で作業する記者が多く、レストランは長蛇の列、トイレも不足するなど、過去の日本でのサミットと比較しても規模が圧倒的に小さいという指摘がありました。

日韓首脳会談と残る外交課題

最終日である11月1日、李大統領は議長国記者会見でAPECの成果や韓国の外交構想について述べました。特に日韓関係については、高市総理を「とても立派な政治家だ。心配事はすべて消えた。次回は高市総理の地元奈良県で首脳会談を行いたい」と評価し、日韓関係の改善に意欲を示しました。高市総理と李大統領は10月30日に初の首脳会談を行っています。

しかし、両国間には依然として微妙な問題が横たわっています。高市総理が11月7日の衆院予算委員会で台湾有事の発生が「存立危機事態になり得る」と答弁したことに対し、11月8日には薛剣駐大阪中国総領事がX(旧Twitter)上で不適切な発言をしたことは記憶に新しい出来事です。また、日韓首脳会談のわずか2日前には、韓国空軍特殊飛行チーム「ブラックイーグルス」がドバイ・エアショーへ参加する際の航空自衛隊那覇基地での給油支援計画が、竹島付近での訓練を理由に中止されるなど、歴史認識や領土問題が影を落とす事態も発生しています。APECの場での会談は実現したものの、日中韓間の複雑な外交スタンスは、今後も継続的な課題となりそうです。

次回APECと今後の展望

2026年のAPEC首脳会議は11月に中国の深センで開催されることが決定しています。韓国以上の取材の自由度に対する懸念や、ロシアのプーチン大統領の出席の可能性、トランプ大統領の動向など、各国メディアからは様々な声が聞かれました。日本でのAPEC首脳会議は2010年の横浜以来、21年ぶりとなる2031年の開催が決定しており、今回の教訓を踏まえた運営が期待されます。

慶州APEC首脳会議は、国際協力の重要性を示す一方で、各国間の潜在的な緊張や開催国が直面する logistical な課題を浮き彫りにしました。特に、中国要人訪問時の「統制された歓迎」やメディア環境の不備は、今後の国際会議運営において考慮すべき点として残ります。