老後の移住というと、リタイア後に都市から地方へ移住するイメージが強いですが、近年、子供のいる東京に地方から移住する人がじわりと増えています。
ただ、年を重ねてから初めて東京に住むとなると、子供のそばで暮らせる安心感がある一方、生活に適応できるかといった不安や、住み慣れた街を離れる寂しさなどが立ちはだかり、なかなか決断できるものではありません。
そこで本連載では、その“勇気ある決断”をした経験者たちの話を聞き、移住を考えている人の参考になるお話をお届けします。
■「移住してよかったことしかない」
東京都の東部にある葛飾区は荒川、中川、江戸川など大きな河川に挟まれ、今も風情ある町並みが残る下町である。そんな葛飾区に飲食業をやめ、岩手から東京に移住した夫妻がいる。ひとしさん(66)、みきこさん夫妻である。浮き沈みの激しい飲食店の経営を経験した後、東京を安住の地として選んだ。どんな人生を歩んできたのだろうか。
梅雨とは思えない猛暑や晴天が続いた6月下旬。葛飾区の待ち合わせ場所に、ひとしさん・みきこさん夫妻が現れた。
「東京に住んで12年近くが経ちましたが、今から考えると本当に移住してよかったことしかないです」
現在はタクシー運転手であるひとしさんはこう断言する。
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東京に移住した後は山田洋次監督の名作映画シリーズ「男はつらいよ」の舞台である柴又に住み、その後は同じ葛飾区内のマンションに引っ越した。「寅さん」のイメージが絶大な影響力を持つ柴又は誰もが知る下町の代表格だが、ひとしさんが住む街の周辺もこぢんまりとした商店が連なる落ち着きのある街だ。
「東京と言っても、このあたりは物価も都心に比べかなり安く、交通の便もいい。かなり暮らしやすいです」(ひとしさん)
■急遽決まった秋田への帰郷