日本を震撼させた平成の凶悪事件。事件後に流れた歳月は犯人・遺族の心境にどのような変化をもたらすのか。ノンフィクションライター・小野一光氏が、今回は「平成21年 島根女子大生バラバラ殺人事件篇」の「その後」を歩く。
【画像】被害者・Aさんがアルバイトで勤めていたショッピングセンター(2025年3月)
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間もなく深い雪で閉ざされることになる山中で、事件は発覚した。
2009年11月6日の昼過ぎ、広島県北広島町の臥龍山(標高1223メートル)8合目付近の崖下で、キノコ狩りに訪れていた広島市の男性が、人の頭部を発見する。翌7日未明には、それが現場から直線距離で約25キロメートル離れた、島根県浜田市にある島根県立大学1年の女子学生、Aさんの遺体であることが確認された。
すぐにAさんと判明
島根・広島両県警が浜田署に合同捜査本部を設置して、臥龍山を中心に大規模な捜索を行ったところ、同山中で7日から9日にかけて、大腿骨と四肢が切断された胴体、それに左足首が見つかった。続いて19日には、野生動物の糞の中やその近くで、右足の親指の爪1点と、爪と見られる破片4点、約1.5センチメートル大の肉と骨片が発見される。広島県警担当記者は次のように明かす。
「遺体の顔面には皮下出血と筋肉内出血が認められており、生存中に激しく殴打されていました。死因は紐のようなもので首を絞められたことによる窒息で、遺体は死後に切断されていますが、胴体には四肢の切断とは別の刃物で切られた傷がありました」
Aさんは遺体が発見される11日前の10月26日、アルバイト先である、浜田市のショッピングセンター内にあるアイスクリーム店にいたことが確認されている。そして同店の営業終了後、午後9時15分に建物から出たのを最後に、行方がわからなくなっていた。前出の記者は言う。
「その翌日の27日、Aさんと連絡がとれないことを不審に思った母親が、彼女の住む学生寮に連絡を入れました。そこで寮に戻っていないことが判明し、28日に浜田署へ捜索願を出しています。しかし、有力な手がかりが集まらなかったことから、11月2日に公開捜査へ切り替えたばかりでした。そんな事情がありましたから、身元不明の遺体が発見されてすぐに、Aさんであることがわかったのです」
香川県出身のAさんが大学に通うため、人口6万人あまりの浜田市へやって来たのは約半年前のこと。交友関係などは限られていることから、当初は重要参考人の絞り込みは容易であると見られていた。もちろん、Aさんとは面識のない“流し”の犯行である可能性も考慮されていたという。
私は発見された遺体の身元が判明した当初から取材に関わっており、浜田市の大学や学生寮、アルバイト先などを中心に、遺体発見現場となった北広島町の臥龍山周辺も含めて、聞き込み取材を続けていた。






