今年、日本各地でクマの出没が異常なペースで続いており、「クマ被害」は統計史上最悪の数字を更新しています。例年であれば冬に入り、クマは冬眠するため目撃情報も減少するはずですが、今年は状況が異なります。多くの人々が抱く「クマは寒いから冬眠する」という一般的な認識には大きな誤解があり、この誤解を解き明かすことで、日本が今後取るべき効果的な「クマ対策」が見えてきます。
記録的なクマ出没と深刻化する被害
住宅街や市街地でのクマの目撃は連日のように報じられ、11月末時点で死者13人、負傷者は200人近くに達し、これは過去の記録をはるかに上回る深刻な状況です。例年、冬の到来と共に自然と落ち着くとされるクマの活動ですが、今年は寒くなっても人里での出没が後を絶ちません。来シーズンに向け、どのように被害を減らすべきか、喫緊の課題となっています。
クマの冬眠は「寒さ」ではなく「餌」が理由
クマの生態に詳しい東京農工大学の小池伸介教授は、「冬眠について、そもそも大きな勘違いがある」と指摘します。教授によると、クマが冬眠する真の理由は寒さではなく、冬に食べ物がなくなるからだと言います。これは、餌のない冬を乗り切るためにクマが編み出した省エネ戦略であり、例えば動物園のクマが冬眠しないのは、冬でも餌が十分にあるためです。
日本には北海道に生息する「ヒグマ」と本州・四国に生息する「ツキノワグマ」がいますが、いずれの種も基本的に冬は冬眠します。しかし、今年はクマの主要な餌となるドングリなどの木の実が記録的に少なかったため、山や森の中にいる多くのクマは既に冬眠に入っていることが調査で確認されています。
北米に生息するアメリカクロクマ。推定80万頭以上が生息するが、年間死者は少数。
人里に出没するクマの行動原理と誘因物
山に餌がないため多くのクマが冬眠しているにもかかわらず、「クマ出没」が続くのは、市街地や集落に「食べ物があるから冬眠していない」クマが存在するからです。畑の農作物や生ゴミが主な原因と考えられがちですが、管理されずに放置された柿の木や栗の木なども、クマにとって非常に強力な誘因物となります。一度「ここに餌がある」と学習したクマは、同じ場所に何度も現れる習性があります。
被害を食い止めるための具体的な次の一手
この深刻なクマ被害を食い止めるためには、体系的なアプローチが必要です。まず、クマが現れた地域では、目撃情報を詳細に整理し、クマが何を食べていたのかを突き止めることから始めるべきです。その上で、誘因となっている餌源を徹底的に除去し、クマに「もうここに餌はない」と明確に示すことが不可欠です。もし木の伐採が困難な場合や、木を残したい場合は、電気柵で囲むなどの物理的な対策も有効な手段となります。地域全体で誘因物を管理し、クマと人との適切な距離を保つことが、安全な共存への道を開くでしょう。
日本の「クマ被害」は、単なる自然現象ではなく、人間の活動が深く関わっていることが明らかになっています。クマの生態、特に冬眠に関する正確な理解を基に、効果的な餌源管理と地域住民の協力が、これ以上の被害を防ぐための鍵となります。私たちは、専門家の知見を活かし、積極的に「クマ対策」を講じることで、安心できる社会を築いていく必要があります。
